「命令される側になりたい...」女性CEO×年下男性のSM欲、映画『ベイビーガール』の「普通じゃないセックス」
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このひとことが張り詰めたロミーの何かを解き放ち、2人は不倫関係になる。情事はSMめいていて、ホテルの部屋で(時には会社の会議室でも)ロミーはサミュエルの命令に従う。四つんばいになったり、床に置いた皿のミルクを猫のように飲んだり......。
ぎこちなく始まり、次第に熱くなるセックスゲームは、より幅の広い性的趣味の持ち主から見れば、ありきたりかもしれない。だが相対的には過激でも何でもないという事実こそ、監督の狙いの1つだ。
本作が探ろうとするのは、支配・被支配関係の極限ではない。性倒錯とされる欲望があること自体に、ある種の女性(おそらく一定の年齢の異性愛者の既婚女性なら特に)が覚える強烈な恥の感覚だ。
ロミーは夫に(インターンと寝ているという重大な情報は除いて)正直に欲望を伝えようとし、自分は邪悪だと泣きながら言う。「モンスター」であり「普通ではない」と。サミュエルとの情事は彼女にとって、性的なロールプレイが人間として当たり前の行為とされる世界への入り口だ。
ライン自身が手がけた脚本からは、セックスをめぐる2人の態度の違いが、部分的には世代間の相違であることが浮かび上がる。特定の性的アイデンティティーにとらわれないZ世代のサミュエルは、同性との性的関係にもよりオープンだ。
ロミーが被支配者役なのは、反フェミニズム的だと批判する年上世代に対し「時代遅れのセクシュアリティー観だ」と反論する。