最新記事
クールジャパン

「伝統を汚す」「北九州の恥」と批判されたド派手着物でNYに進出 貸衣装店主・池田雅の信念は「お客様の要望は必ず叶える」

2024年1月16日(火)19時00分
宮﨑まきこ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

「ド派手な着物」がニューヨークで受け入れられたワケ

会場にいる大勢の観客が、みやびのショーにスマートフォンのカメラを向け、「Amazing!」と声をあげた。観客がみんなみやびの着物を、作品として見入っている。その様子に鳥肌が立ったと振り返る。

ショーの最後、涙が止まらない池田さんは花道に押し出され、スポットライトと拍手を浴びた。右へ、左へよろめきながら観客に頭を下げ、「サンキュー」と繰り返しながらランウェーを歩いた。

「品がない」「伝統を汚す」と批判を受け、「荒れた若者の象徴」とされた池田さんの着物。今彼女は、世界の舞台で「着物デザイナー」として喝采を浴びている。

最高潮のままショーが終了し、池田さんは海外メディアから質問攻めに遭っていた。その場にいた多くの関係者がコメントを求め、連絡先を交換しようと列を作った。

日本の着物の美しさが、ニューヨークで認められた――。池田さんはそう言うが、それだけだろうか。ショーのオープニングパフォーマンスを担当したShokoさんは言う。

「着物の美しさだけが評価されたわけじゃないと思います。彼女が今までどんなふうに自分の仕事に向かい合い、チームメイキングをして、このショーを作り上げたか。全てが表れていたからこそ、喝采を浴びたんだと思います」

これからの池田さんについて尋ねると、Shokoさんはこう答えた。

「The universe knows everything!」(神のみぞ知る!)

新成人にとっては「一生に一度の晴れの舞台」

今、池田さんの元には、アメリカ、ヨーロッパをはじめ、世界各国からオファーが届いている。ファッションショーの後、日本からも新聞社やテレビ局から立て続けに取材を受けた。

2023年2月に北九州市の新市長に就任した武内和久氏は、池田さんを市庁舎に招いてその功績を称えた。池田さんが語った「北九の若者に育てられた文化がアートとして評価された」という言葉を受けて、市長は以下のようにツイートしている。

『若者たちの希望に応えるため、約20年にわたり手がけてきたド派手衣装が世界で喝采を浴びました。この成功は「北九州の若者たちとの合作です」と。批判を恐れず、重ねられて来た努力。世界で強いメッセージを発した北九州市発の文化』

「成人式のニュースを見ているといかにもヤンキー。悪いことをしている怖い人のように見えるかもしれません。でも彼らは10代の後半くらいから、本気で成人式に出ることを目標に、真面目に、一生懸命働いている子がほとんどです。大げさと思うかもしれませんが、成人式が一生に一度の晴れの舞台なんです。好きな衣装を着て喜んでほしいし、彼らの夢を叶えてあげたい。その思いだけです」

池田さんがかみしめるように言ったことを今でも忘れられない。そんな池田さんの姿勢に、同世代の筆者はすっかり心を奪われた。

人生は最後まで、何があるのかわからない

みやび小倉本店では、取材中もひっきりなしに電話が鳴っていた。スタッフに声をかけられるたびに「折り返します」と伝えながら、池田さんは3時間半のインタビューに声が枯れるまで付き合ってくれた。

「これから、どうするんですか?」

最後に聞くと、池田さんは黒髪を後ろに撫でつけながら、考える。

「私、自分から海外に行きたいとか、有名になりたいとか考えたことがないんですよ。相手が私を見つけてくれて、そのお役に立てればと思ってやってきただけ。我ながら受け身なんです。でも、人生は何があるかわからないじゃないですか」

たとえ人生の折り返し地点に差し掛かり、諦めた夢を数える日々を過ごしていても、人生は最後まで、何があるのかわからない。

彼女の心はすでに、次の成人式に向かっている。これからも池田さんはただ、目の前の人のために全力を尽くすだけ。それが新成人でも、世界のファッションショーであろうとも。そんな彼女の肩を、今度は誰が叩くのだろうか。

The universe knows everything. 池田さんの未来は、神のみぞ知る。

宮﨑まきこ(みやざき・まきこ)

フリーライター
立命館大学法学部卒業。2008年より13年間法律事務所勤務後、フリーライターとして独立。静岡県在住。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg




SDGs
使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

TikTok米事業売却計画保留、中国が難色 トラン

ワールド

アングル:ミャンマー大地震で中国が存在感、影薄い米

ビジネス

米国株式市場=ダウ2231ドル安、ナスダック弱気相

ビジネス

NY外為市場=米ドル反発、FRB議長発言を材料視
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 3
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 4
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 5
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 6
    大使館にも門前払いされ、一時は物乞いに...ロシア軍…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    地球の自転で発電する方法が実証される──「究極のク…
  • 9
    4分の3が未知の「海の底」には何がある? NASAと仏…
  • 10
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中