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「伝統を汚す」「北九州の恥」と批判されたド派手着物でNYに進出 貸衣装店主・池田雅の信念は「お客様の要望は必ず叶える」

2024年1月16日(火)19時00分
宮﨑まきこ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

マンハッタンのど真ん中、ブロードウェイストリートにあるビルを改造した和室に、みやびの着物だけがずらりと並べられた。

ニューヨークでは、特にセレブリティの間で日本文化の人気が高い。ファッション関係者、ミュージシャン、オペラ歌手、大学教授や音楽家など、多くのセレブがみやびの着物に喝采を送り、池田さんの話に耳を傾けた。言葉の壁があるにもかかわらず、池田さんはニューヨークという街の価値観に体が馴染むように感じた。

「もしかして、ここが自分の生きていく土地だったのかもしれないって」

もしも30年前、ニューヨークに留まっていたら――。

「雅さんはニューヨーク向きですよ! 次は何をするんですか?」

個展で仲良くなった日本人バレエダンサーのShokoさん(玉井翔子)に聞かれ、池田さんは戸惑った。Shokoさんはメトロポリタンオペラ劇場のキャストであり、自分でも20人ほどのバレエグループを率いている。14歳から日本を出て、ニューヨークで夢を叶えた30代の彼女が、同じ温度で50代の池田さんに芸術への情熱を求めてきたからだ。

この個展は、一生に一度の思い出だと思っていた。次はない。しかし池田さんの予想に反して、「みやびの着物」はニューヨークで受け入れられていく。

世界4大ファッションショーへの招待

個展の翌月、再度ニューヨークへの招待状が届く。世界四大ファッションショーの一つ、ニューヨーク・ファッションウィークへの招待状だった。

「ニューヨークは、私の原点。個展の時は、再びここに来られただけで幸せだった。それが、まさか翌年にもう1度来ることになるなんて。しかも、ファッションウィークでデザイナーとして来るなんて」。池田さんは5人のスタッフを連れて、本番5日前にニューヨークに入った。

9月11日、ファッションショー当日。トップバッターとして、花魁姿のShokoさんが、篠笛の音を引き連れて姿を現す。暗がりの中、観客が舞台に向けるスマートフォンの明かりが、人魂のように揺らめいていた。

最初に目に映るのは、金の鳳凰。Shokoさんの開いた腕に向かって、振袖の中の鳳凰が羽を広げている。観客のスマートフォンが、彼女を追った。

「Shokoにはオープニングパフォーマンスで花魁道中をしてもらいました。この日のために日本から高下駄を送って、歩く練習をしてもらって。それだけじゃなく、彼女にはショーモデルたちへ、着物での歩き方のレクチャーをしてもらいました。彼女がいなければ、ショーは成功しなかった」と池田さんは振り返る。

金さん、銀さん、虹キングの衣装がずらり...

観客のざわめきを残して、Shokoさんは舞台から消えた。同時に、銀色の振り袖に身を包んだ氷の女王が現れ、次に金色の振り袖が続く。ド派手成人式の端緒となった、金さん・銀さんの衣装を思い起こさせる。

トラの刺繍入りの着物を着こなした男性の腕には、張り子のトラ。観客に向かって牙を剥くこのトラは、北九州伝統の山笠人形職人、富田能央氏の作品だ。池田さんはこのショーのために頼み込んでこのコラボが実現した。

次々と現れては観客の目を奪い、舞台から消えていく着物たち。池田さんは、その様子を舞台袖からじっと見ていた。しかし、本当はファッションショーが始まる前からすでに視界はぼやけ始めていた。

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