「伝統を汚す」「北九州の恥」と批判されたド派手着物でNYに進出 貸衣装店主・池田雅の信念は「お客様の要望は必ず叶える」
「ほんとはテレビに出たいんよ! テレビ局の人、取材に来てくれんかな?」
池田さんは地元のテレビ局に直接電話をかけ、新成人を取材してもらえるよう頼み込んだこともある。こうして北九州市の成人式は、地元テレビ局で放映され始め、その華美な姿が目を惹き全国のキー局までもが取材に来るようになる。
しかし、北九州市の成人式が有名になるにつれて、批判の声も高まっていった。
「北九州の恥」と苦情の電話が殺到した
「2012年ごろからかな、誰かがブログに書いたことをきっかけに、最初は匿名掲示板で叩かれ始めて。メディアでも取り上げられてからは、特に伝統を重んじる地元の方からの苦情の電話が入り始めたんです」
さらに、当時人気だった深夜バラエティで、北九州市の成人式が笑いのネタとして取り上げられたことが、地元からの批判を強める後押しとなった。
「北九州の恥だ」
「着物の伝統を知っているのか」
「日本の伝統を汚すな」
「この店のせいで、北九州の治安が悪くなってるんだ」
成人式を終え、スタッフ全員が疲れ果てている翌日に、批判の電話は集中した。池田さんとスタッフは、そのたびに一言も反論せず「貴重なご意見、ありがとうございます」と頭を下げた。
さらに2015年ごろからは、いわゆる「荒れる成人式」と北九州のド派手成人式が結びつけられてさらに批判が高まり、住民から北九州市に「陳情書」が出される事態となった。
『......この見るに堪えない成人式については、小倉北区の貸衣装店が成人式には不適切な服装や髪型を勧めることに問題がある。(中略)この恥ずかしい状況を変える責任は、北九州市にある。成人式について、考えてみてはどうか』(平成27年9月8日受付、陳情第106号より一部抜粋)
周辺住民からの声に押され、とうとう北九州市が動く。2016年1月10日の成人の日を前に、市は公式ホームページで異例の呼びかけを行った。
「新成人の皆さんにとって、『大人』として出席する初めての一大行事、きちんとした服装で出席するよう心がけましょう」
テレビやインターネット上で揶揄され、苦情の電話を受け続け、さらに市からも自分のデザインした着物を否定される。こうした批判が、成人式が終わるたびに繰り返された。
さすがにやめようとは思わなかったのか。そう尋ねると、池田さんは間髪入れずに答える。
「そりゃあつらかったし、傷つきましたよ。でも人によって価値観は違うので、プロとしてどんなご意見でも真摯(しんし)に受け止める覚悟はできています。それにどんなに批判を受けても、また次の新成人が新たなアイデアの種を持ってくるので、楽しくてやめられないんです」
「味方」からの裏切り
外野から何を言われても、新しいアイデアを形にする楽しさと新成人からの支持がある限り、池田さんはやめる気にはならなかった。しかし一度だけ、心折れかけたことがあるという。それは、信じて一生懸命尽くしたはずの、新成人からの裏切りだった。
みやびに来る新成人は、着物のレンタル料を自分の収入から分割で支払うケースが多い。しかし、若く、収入が不安定な新成人が支払う以上、時には分割払いが止まってしまうこともある。
客商売だからへんな噂は避けたいと、何年かは泣き寝入りしていたものの、そのうち「みやびは払わなくても大丈夫」という噂まで流れ始めた。のちに全国紙でインタビューに答えた未払い成人の一人は、先輩が支払っていないことを知り、最初から支払いを逃れるつもりで、申込書に前住所を書いていたと語った。
「......お客さまから裏切られたときは、本当につらかったですね」