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「伝統を汚す」「北九州の恥」と批判されたド派手着物でNYに進出 貸衣装店主・池田雅の信念は「お客様の要望は必ず叶える」

2024年1月16日(火)19時00分
宮﨑まきこ(フリーライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

「結局、合計で百数十万円かかってしまいました。でも、金さん、銀さんにはすでに3万~4万円と伝えてしまっています......。今思えば、プラスで請求してもよかったんですけどね」

現在ならフルオーダーでのレンタル料は製作費の半分程度、平均20万~30万円かかる。しかし、できあがった衣装を見て大喜びする金さん、銀さんに、池田さんは追加料金を請求できなかった。

「着物は次の年も貸し出せるので、3周目ぐらいまでには黒字になるはずなんですよ。でも、あるものをそのまま着てくれる子なんていないから、毎年いろいろ追加して、大きくはもうかりません」

金と銀の羽織袴で成人式会場のスペースワールドに乗り込んだ金さん、銀さん。成人式後、自分たちがどれほど会場で映えたかを語る彼らを見ていたら、お金なんて後からどうとでもなると思えた。

みやびスタイルを完成させた男「虹キング」

その年の成人式が終わり、また穏やかな日々が戻るかと思った。しかし、そうはいかない。みやびには、「金さん、銀さんの紹介」で、次々とこれまでにないようなきらびやかな衣装を求める新成人が訪れるようになった。

「ちょっと待って、と思いましたよ。みんな無茶を言うんですよ。派手な色にしたい、着物に名前を入れたい、ファーをつけたい、花魁衣装にしたい......。それに対応しているうちに、ここに来れば派手にかっこよくしてもらえるって評判になっちゃって」

先輩より派手な衣装を着たい――。新成人の要望はさらにエスカレートしていく。本来は伝統的でシックな着物が好きだという池田さん。最初は戸惑ったものの、彼らの要望を形にしていくうちに、充実感と達成感を味わい始めていた。

そして金さん銀さんの登場から6年後、今のみやびのスタイルを確立する一人の青年が現れる。通称「虹キング」。彼は2008年の成人式翌日にやってきた。

「模造紙みたいな紙に、色鉛筆で自分の希望を描いてきたんです。ここをファーにして、ここには柄が入って、背中には派手な刺繍が入って、生地は七色のレインボーカラー。オリジナルの傘と扇子にフルネーム入りの幟旗......。今北九州の成人式でスタンダードになっている全てのオプションやアイデアの種が、そこに詰まっていたんです」

彼の拙いデッサンを一つひとつ形にしていくことに決めた。いちばん大変だったのは七色の袴。どうすればいいのか分からなかった。縫製会社にはすべて断られ、結局は自分で布を縫いつないだ。

池田さんのなかで全てのスキルセットが揃うことになる。虹キング以降、どんな要望にも対応できる自信がついた。

「うちに来る新成人は、すでに働き始めている子が多いんです。私にとって成人式は毎年の行事だけど、彼らにとっては一生に一度。みんな、この日を目標に頑張って働いているから、思い出に残るものにしてあげたい」。これが池田さんの原動力になった。

北九州の「ド派手成人式」が全国へ

北九州の成人式が有名になるにつれて、池田さんの店も大きくなっていく。まずは東京・銀座、西葛西、千葉と首都圏に3つの支店を構え、強いリクエストを受けて大阪・守口市にも出店した。

北九州の成人式がマスコミに取り上げられるようになったのも、池田さんが絡んでいた。発端は毎年成人式の写真を掲載していた地元タウン誌「エヌオー(NO‼)」が、出版業界の不況のあおりを受けて廃刊したことだった。

「中学のころから、成人式でエヌオーに出るんが夢やったのに!」
「ねえ、みやびで雑誌、作らん?」

新成人の声に押され、池田さんは2015年から成人式のクリップ集「みやび」を創刊した。

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