最新記事

日本

知らない女が毎日家にやってくる──「介護される側」の視点で認知症を描いたら

2021年4月26日(月)16時45分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

■完璧な主婦だった私

私は料理が得意だったし、掃除だって完璧にできた。立派な板張りの廊下はお父さんの自慢だったから、毎朝、しっかり磨き上げていた。

あなたはいつも、お母さんって本当にすごいですね、完璧な仕事ですよと言ってくれた。息子だって、かあさんの料理がいちばんやと、いつも言ってくれていた。それなのに、今はただの洗濯ばあさんです。

ほら、指がずいぶん曲がってしまったでしょう。
いつからこんなに曲がってしまったのか、思い出せない。

爪には薄いパールのマニキュアを塗っていたはずなのに、すべて剝げ落ちてしまっている。お花の稽古をしている頃はこんな指ではなかったのにと、不安な気持ちになる。いつの間にか年をとってしまったと悲しくなる。

そういえば、お稽古は何曜日だった? 生徒の山下さん、佐藤さん、神田さん、あの人たちは、確か火曜日の午後でしたよね? しばらくお会いしていないような気がするから、今夜、お電話してみましょう。

それにしても、この女はいつまでこの家にいるつもりなのか。

私とお父さんに対してたいそう偉そうに、熱を測れ、薬を飲め、血圧はどうだとかなんとか、押しつけてくる。コロナが大変だ、外出は控えてくださいって、いったい何様のつもりだろう。コロナがそんなに危険なのだったら、うちに来なければいいじゃないですか。お父さんがウイルスに感染したら、どう責任を取ってくれるのですか?

服薬の確認? 資格がある?
全部噓っぱちなのはわかっている。

いったい、誰なのだろう。なぜ私に馴れ馴れしく話しかけてくるのだろう。今日、初めてお会いしたんですよ? 常識のある人ならば、もっと丁寧に話しませんか? だって初対面ですもの。それに私は年長者ですよ。ねえ、どなた様?

※続き(抜粋第2回)はこちら:スタイル抜群のあの女がこの家を乗っ取ろうとしている──認知症当事者の思い

全員悪人
 村井理子 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ大統領、防空強化の必要性訴え ロ新型中距

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではなく「タイミング」である可能性【最新研究】
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳か…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    2人きりの部屋で「あそこに怖い男の子がいる」と訴え…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中