記憶力や認知力をアップさせるサプリメントは存在するか
脳機能への肯定的な影響を期待できることから、どんな食品が抗酸化力に優れているかが広く知られるようになっている。野菜のうちでも、とくに緑の葉野菜をたくさん、フルーツはそれより少なめに摂ることが認知力の低下率を抑え、認知症になるリスクを低下させることがわかっている。
しかし、2010年の研究によって、サプリメントのかたちで抗酸化物質を摂っても認知力には影響を与えないこともあきらかになっている。
サプリメントは良い? 悪い? 効果はない?
脳に良いといわれるサプリメントを買おうと考える日が、あなたにも来るかもしれない。確かに、すべての重要な栄養素を食事から摂るのはむずかしい。サプリメントは、ある個別の栄養素が不足し、その欠乏が認められるときに価値を持つものだが、脳のカテゴリーでもっとも購入されるのは、記憶力や〝ブレインパワー〞をアップさせると主張する類いのハーブやビタミンのサプリメントだ。
しかし、現在までに、プラセボ効果以上に認知機能を向上させたり、認知力低下を緩和したり、アルツハイマー病の発症を延期させたりするサプリメントは現れていない。国立衛生研究所が2010年に報告したメタ分析のなかにイチョウ葉エキスに関するものがある。そして、イチョウ葉エキスにはアルツハイマー病になるリスクを低下させる働きがないことが厳密な研究結果によって示されている。実際、最近の研究結果のほとんどが、入手が容易で、記憶力を向上させることで知られたこのサプリメントの効果を否定する内容になっている。
たとえば、認知力が健常である75歳以上の2587人を対象にした無作為化比較対照研究がある。120ミリグラムのイチョウ葉エキスを日に2回飲んでもらったものだが、認知症の発生率を低下させる効果を確認することはできなかった。別の研究で、認知的に健常な人と軽度認知障害を持つ人にイチョウ葉エキス120ミリグラムを日に2回飲んでもらったものがある。その後の認知症の出現頻度を調べたが、出現率が低下しないことが立証されている。ほかの臨床試験では、3069人の被験者に120ミリグラムのイチョウ葉エキスを日に2回、平均6年間にわたって飲んでもらっている。ここでも、認知的に健常であっても、軽度認知障害を持っていても、高齢者(72~96歳)の認知力低下を食い止める効果は少ないという結果になった。
同様に、ビタミンB12、E、C、ベータカロテンをサプリメントのかたちで摂ってもアルツハイマー病になるリスクや認知力が低下するリスクを小さくする効果がないことを、相当数の研究結果が示している。葉酸サプリメントだけにアルツハイマー病のリスクを低下させる可能性が見られるが、認知力そのものの低下を軽減する効果は確認されていない。
ハーブのサプリメントに注意したいほかの理由として、別の処方薬や市販薬の効力を無効にする副作用が見られる点もある。たとえば、国立衛生研究所のスティーブン・ピスチテッリらは、サプリメントとして売られているセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)とHIV感染の治療に使われるプロテアーゼ抑制剤「インジナビル」の間に著しい薬物相互作用があることをあきらかにしている。セント・ジョーンズ・ワートは、がんの化学療法に使う薬や産児制限薬との間でも好ましくない相互作用を起こす可能性がある。
※抜粋第3回:コーヒー、アルコール、喫煙、肥満......脳によくないのはどれ? はこちら