最新記事

海外ドラマ

スターとトイレと撮影現場

華やかなイメージのテレビドラマ界だが、現場は意外に地味で平凡だ

2009年4月7日(火)16時49分
マーク・パイザー(テレビ担当)

フィル・マグロー博士は、おそらくアメリカで最も有名なセラピストだろう。人気司会者のオプラ・ウィンフリーが彼の大ファンで、彼のトーク番組をプロデュースしたおかげだ。

  02年にマグローが番組を始めたとき、私は本誌の特集記事のためにロサンゼルスで彼に11週間の同行取材をした。マグローのド派手なスポーツカーに乗ったり、会員制のカントリークラブでテニスをしたり――。彼がつつましいテキサス人からハリウッドの大物になるまでの話も聞かせてもらった。

 ある日、私は映画会社パラマウント?にある伝説的なセット、つまりマグローの番組の華々しい撮影現場を訪ねた。「わたしの倉庫を見せてあげるよ!」と彼はワクワクした様子で言った。「倉庫?」私は少し困惑ぎみに聞いた。「ああ、ハリウッドの人間は『セット』などと気取った言葉を使うが、実際は照明やカメラがどっさりある古くて大きな倉庫さ」

尿意を催したら最悪

 ある意味、マグローの言葉はドラマの撮影現場のすべてを要約している。テレビ撮影というと聞こえは華やかだが、実際はきわめて地味で平凡だ。せりふ覚えの悪い俳優がいれば1話の撮影に数日かかるし、「テイク142!」の声がかかることもある(『フレンズ』でチャンドラ役を演じたマシュー・ペリーのように、話しながら必ずせりふを変える俳優がいるときもだ)。

 撮影が始まると、その場にいるすべての人は音をいっさい立ててはならない。咳き込んだり、「ここに座ってもいいか」と聞くなんてもってのほかだ。そして撮影の合間には、誰も(俳優、監督、照明係、カメラマン、スターの髪形を気にし続けるメーク係)が狂ったように走り回る。

 トイレに行きたいときは最悪だ。用を足したいかなんて気にかけてくれる人がいないのもそうだが、何よりもトイレは常に遠く離れた場所にある。スタジオ内のスペースは貴重だし、神聖な撮影現場に水を流す音が響き渡ったら大変だ。『フレンズ』の撮影ではトイレは遠くにあるカフェのセットの後ろに押し込められ、多くの撮影所でも外に出てトイレのあるトレーラーまで歩かなければならない。

 トレーラーといえば、ほとんどのスターの控え室でもある。少なくとも彼らには専用のトイレがあるのだから悪くはないが、造りはショボいし、狭くてうるさい。俳優ジョン・グッドマンが出演していたホームコメディー『ノーマル・オハイオ』のセットを訪ねたとき、グッドマンはトレーラーの中を絶えず行ったり来たりしていて、そのたびにトレーラーがひっくり返りそうなくらい揺れた。

 こうした控え室で俳優たちが生活していることを考えると、中にどんな物を置いているのかが気になるところ。彼らの寝室をのぞき見するようなものだ。

『フレンズ』でロス役を演じたデービッド・シュワイマーの控え室は、インテリアデザイナーが仕立てたような空間だった。高級な革張りの椅子が並び、落ち着いた青とチョコレートブラウンの壁紙。ドラマで演じているまぬけ役と本当の自分を混同しないでほしい、と主張しているかのようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:経済対策要求、参院選にらみ与野党で林立 規模

ワールド

ベトナム政府、トランプ関税回避へ中国製品の取り締ま

ビジネス

英中銀、6億ポンド規模の長期債入札を延期 市場の混

ワールド

米国の天然ガス、今年は生産と需要が過去最高に=EI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が見せた「全力のよろこび」に反響
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 10
    右にも左にもロシア機...米ステルス戦闘機コックピッ…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 9
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中