最新記事
ビジネス

組み立てが大変なイケアの家具は満足度が高く、時短になる簡単ケーキミックスは売れなかった理由

2024年7月23日(火)11時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

この新製品は、すぐにヒットした。なぜなら、この新たなケーキミックスを使って焼いたケーキなら、主婦たちは「手づくり」だと堂々と言えるからだった(ほんのわずかな後ろめたさはあったかもしれないが......)。

この一件で、ダフ社(そして消費者行動学の学生たちも)は「人間は自分自身がつくったものや影響をもたらしたものに、より好ましい反応を示す」というきわめて貴重な教訓を手に入れた。労力をかけるということには、愛情を込めるという大事な意味も含まれている。

折り紙の実験で判明した認知バイアス

イケア効果を深く探る一環として、マイケル、ダニエルと私は、ある実験のための被験者を募った。彼らに依頼したのは、折り紙で動物をつくることだ。

この作業に対しては、時給が支払われることになっていた。用意されていた色つきの折り紙と折り方の説明書を手にした被験者たちは早速、作業に入った。

本音をいえば、志願してくれた恐れ知らずの被験者たちがつくった折り紙のカエルや鶴は、何らかの賞を取れるレベルにはほど遠かった。被験者たちはみな折り紙の初心者で、経験のなさが作品によく表れていた。

作業が終わったとき、私たちのために集まってくれた被験者たちに、折り紙の動物を売りましょうと持ちかけ、そして「自分がつくったカエルや鶴を買って持ち帰ると想定したときに、いくらまでなら支払えるかを書いてください」と頼んだ。

今回の実験では、この折り紙の初心者たちを「作成者」と呼び、折り紙で動物を折ることに参加していなかった別のグループを「購入者」と呼んで区別していた。

そして私たちは、作成者がいないところで、購入者に作品を評価して値段をつけるよう求めた。

すると、作成者が自分でつくった折り紙の動物に対してつけた値段は、購入者がつけた値段の平均5倍だったことが判明した。これはまさにイケア効果だ。

私たちは、労力を注いだものに対して、より一層愛着を抱くのだ。

折り紙実験を次の段階に進めると、ますます興味深い反応が見られた。

第2段階では、折り紙の経験がない被験者グループを新たに募り、折り方の大事なポイントを削除した説明書を渡して作業を依頼した。

この説明書を見ながら折って動物を正しくつくるのは、不可能に近かった。できあがった作品は第1段階のものよりさらにひどかった。多くの被験者の折り紙作品は、できるはずだった動物とは似ても似つかない姿だった。

そして当然ながら、購入者たちはこれらのくしゃくしゃの作品に大した価値を見いだせなかった。そんなわけで、作成者たちが彼ら自身の作品につける値段も当然下がるはずだと予想された。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、日本人の短期ビザ免除を再開 林官房長官「交流

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中