組み立てが大変なイケアの家具は満足度が高く、時短になる簡単ケーキミックスは売れなかった理由
この新製品は、すぐにヒットした。なぜなら、この新たなケーキミックスを使って焼いたケーキなら、主婦たちは「手づくり」だと堂々と言えるからだった(ほんのわずかな後ろめたさはあったかもしれないが......)。
この一件で、ダフ社(そして消費者行動学の学生たちも)は「人間は自分自身がつくったものや影響をもたらしたものに、より好ましい反応を示す」というきわめて貴重な教訓を手に入れた。労力をかけるということには、愛情を込めるという大事な意味も含まれている。
折り紙の実験で判明した認知バイアス
イケア効果を深く探る一環として、マイケル、ダニエルと私は、ある実験のための被験者を募った。彼らに依頼したのは、折り紙で動物をつくることだ。
この作業に対しては、時給が支払われることになっていた。用意されていた色つきの折り紙と折り方の説明書を手にした被験者たちは早速、作業に入った。
本音をいえば、志願してくれた恐れ知らずの被験者たちがつくった折り紙のカエルや鶴は、何らかの賞を取れるレベルにはほど遠かった。被験者たちはみな折り紙の初心者で、経験のなさが作品によく表れていた。
作業が終わったとき、私たちのために集まってくれた被験者たちに、折り紙の動物を売りましょうと持ちかけ、そして「自分がつくったカエルや鶴を買って持ち帰ると想定したときに、いくらまでなら支払えるかを書いてください」と頼んだ。
今回の実験では、この折り紙の初心者たちを「作成者」と呼び、折り紙で動物を折ることに参加していなかった別のグループを「購入者」と呼んで区別していた。
そして私たちは、作成者がいないところで、購入者に作品を評価して値段をつけるよう求めた。
すると、作成者が自分でつくった折り紙の動物に対してつけた値段は、購入者がつけた値段の平均5倍だったことが判明した。これはまさにイケア効果だ。
私たちは、労力を注いだものに対して、より一層愛着を抱くのだ。
折り紙実験を次の段階に進めると、ますます興味深い反応が見られた。
第2段階では、折り紙の経験がない被験者グループを新たに募り、折り方の大事なポイントを削除した説明書を渡して作業を依頼した。
この説明書を見ながら折って動物を正しくつくるのは、不可能に近かった。できあがった作品は第1段階のものよりさらにひどかった。多くの被験者の折り紙作品は、できるはずだった動物とは似ても似つかない姿だった。
そして当然ながら、購入者たちはこれらのくしゃくしゃの作品に大した価値を見いだせなかった。そんなわけで、作成者たちが彼ら自身の作品につける値段も当然下がるはずだと予想された。