アングル:息潜める米社債市場、発行が事実上停止 トランプ関税の先行き不透明で

米国の社債市場では新規発行が8日にわずか1件あったが、その後は事実上停止した状態となっている。写真は、米ドル紙幣。2018年2月、メキシコのシウダー・フアレス市で撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)
[9日 ロイター] - 米国の社債市場では新規発行が8日にわずか1件あったが、その後は事実上停止した状態となっている。
背景には、トランプ大統領が世界的規模で「相互関税」を発動すると発表した2日から1週間で国債との利回り格差(スプレッド)が約2年ぶりの大きさになり、市場関係者と発行予定の企業が息を潜めて様子見姿勢になったことがある。
BMOキャピタル・マーケッツの債券戦略部門ディレクター、ダン・クリーター氏によれば、投資適格社債とジャンク債の対国債スプレッドを2―9日までの1週間で見た場合、1週間の拡大幅としてはシリコンバレー銀行など地銀が経営破綻した23年3月以来の大きさだった。
米社債市場では8日、3営業日ぶりの新規発行案件があり、人材サービス企業ペイチェックスが総額42億ドルの3トランシェ(3区分構成)を発行した。新規発行は2日にスイスのセメント企業ホルシムが4トランシェで34億ドルを発行して以来となる。
ICE BofA指数によると、投資適格社債のスプレッドは8日の取引終了時点で2ベーシスポイント(bp)縮小の118bp、ジャンク債は4bp縮小の457bpだった。
しかし、いずれも9日午前の取引で再び拡大した可能性がある。中国やその他アジアのファンドが米国債を大量に売り国債市場のボラティリティが上昇したことが一因だった。指標の10年債利回りは同日、7週間ぶりの高水準となる4.515%を付けた。
「今朝の時点で、市場でリスク許容度が再び急速に落ちており、視界不良の状態のままだ。発行を検討している企業はどこも市場の安定が見えてくるのを待ち続け、市場から一歩退いているままだろう」とBMOキャピタルのクリーター氏はため息をついた。
社債発行の引き受けシンジケート銀行幹部によると、8日朝の段階では5、6社の投資適格企業が社債発行を検討していたが、市場が不安定なのを目の当たりにして発行を見送った。
西部カリフォルニア州ロサンゼルスの投資運用会社ペイデン・アンド・ライジェルのIG(投資適格債)戦略責任者、ナタリー・トレビシック氏は「この先どうなるのか、誰も自信を持って言い切れないと思う」とあきらめ顔で話した。
ただ同氏は先行きへの期待も示した。「ようやく先ほど株価が大きく上昇した。社債スプレッドは足元では拡大したままだが、最終的には株の地合いに追いついて、幾分か安定に向かう可能性があるように思う。(投資家の手元には)多くの待機資金があることは明るい材料だ」と付け加えた。
トランプ大統領は9日、「相互関税」として発動した措置のうち、基礎税率の10%を除く上乗せ分を90日間、一時停止すると発表した。ただ中国を除外し、追加関税を新たに上乗せし、125%への引き上げを明らかにした。
東部マサチューセッツ州ボストンの資産運用会社ボルビン・ウェルス・マネジメント・グループの社長、ジーナ・ボルビン氏は「90日間の一時停止措置は、企業が業績予想を開示する上で背景要因を明確にできる上、方向感を渇望している市場は幾分か安心感を得る可能性がある」と述べた。
ただ、「90日後に何が起こるか不透明で、投資家は今後、ボラティリティが潜む中で悪戦苦闘する状態に置かれる」と懸念も示した。