最新記事

エネルギー

インドネシア、突然の石炭輸出禁止 火力発電用に輸入する中国、そして日本に影響は?

2022年1月6日(木)19時44分
大塚智彦
インドネシア東カリマンタン州沖に停泊する石炭運搬船

インドネシア東カリマンタン州沖に停泊する石炭運搬船 Willy Kurniawan - REUTERS

<2060年までの温室効果ガス排出ゼロを宣言したものの、石炭頼みの実態が露呈>

1月1日、インドネシア政府は31日までの約1カ月間、石炭の対外輸出を禁止する方針を明らかにした。これに伴い国内の石炭採掘会社は収入が閉ざされると同時に、中国、日本などの石炭輸入国への影響も懸念される事態となっている。

今回の「石炭禁輸」の背景には、インドネシア国内の電力事情がひっ迫し、深刻な停電が引き起こされかねない状況がある。このため政府は石炭会社に対して対外輸出用の石炭を国内に回すことを求め、輸出禁止へとつながった。

ジョコ・ウィドド大統領は3日、今回の政府からの「国内供給義務(DMO)」に従わない石炭会社に対しては輸出禁止措置や事業許可取り消しを含む厳しい措置で対処する方針を明らかにしており、政府主導による強制的措置となっている。

このため石炭産業界からは不満も高まっており、ジョコ・ウィドド政権によるエネルギー政策の見通しの甘さが改めて浮き彫りとなっている。

インドネシアは2021年10月31日から11月13日まで英・グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)などで「2060年までの温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を目指す脱炭素社会達成を表明し、炭素排出量が多い石炭からの脱却を内外に表明している。

しかしクリーンエネルギーや水力発電などへの転換が進んでいないことから、石炭に依存している現状を脱却するのは実質的に困難で、「公約」である炭素排出量削減の目標達成は「絵に描いた餅」になりそうな気配だ。

禁輸は中国、日本など輸入国にも影響

インドネシアは国内の発電の60%以上を石炭火力発電に頼っており、世界で10番目にエネルギー関連の二酸化炭素排出量が多くなっている。

またインドネシアは世界最大の石炭輸出国で、4億5000万トンの石炭生産量のうち2900万トン(2021年1月)を輸出している。最大の輸出相手国は中国で約32%を輸出している。輸出相手国は中国のほか、インド、フィリピン、マレーシア、韓国そして日本となっている。

このため1カ月とはいえインドネシアからの石炭輸入が途絶えることで、中国や日本に影響が出ることや石炭の市場価格への波及が懸念されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中