インドネシア、突然の石炭輸出禁止 火力発電用に輸入する中国、そして日本に影響は?
インドネシアの石炭採掘会社は生産量の少なくとも25%を国内需要に供給する義務を負っているが、資源・エネルギー省によるとその義務を複数の会社が怠ったことから「このままでは国内20カ所の火力発電所が停止することになる」とし、その結果として「一般家庭や工場向けなど約1000万人への電力供給に支障がでる」と禁輸に踏み切らざるを得なかった理由を説明している。
同省などによると1月1日現在、石炭関連会社は国内の需要に必要な510万メートルトンのうち1%未満の約35万メートルトンしか国内需要を満たさなかった。このため大規模な停電の懸念が現実化していたという。
賛否両論渦巻く禁輸措置
期間限定とはいえ石炭の国内供給を輸出より優先させた今回の政治判断についてジョコ・ウィドド大統領は「憲法33条で天然資源は国家が管理し、国民の最大利益のために利用される、とある」と説明、業界や国民の理解と協力を求めた。
また液化天然ガス(LNG)に関しても石炭同様に国内供給を優先するよう国営石油会社プルタミナや民間企業にも要請した。
こうした政府方針に対してスリ・ムルヤニ財務相は1月3日に「一時的な禁輸措置は国民の需要を優先し、石炭会社に国内供給義務(DOM)を遵守するよう奨励するものである」と記者団に話し、政策を支持する姿勢を表明した。
これに対しインドネシア石炭会社協会は「政府の禁輸方針は事前に業界と協議されることなく決められたものであり、鉱物・エネルギー大臣に対して異議を伝え、禁輸措置の即時撤回を求めている」と反論している。
石炭会社協会では禁輸措置により、輸出で得られる約30億ドル(約3460億円)規模の外貨収入が消失することになり、政府にとっても石炭会社からのロイヤルティー収入の減少となること、さらに石炭産業への投資意欲の減退にもつながりかねないと危惧を示している。
いずれにしても今回の措置はジョコ・ウィドド政権のエネルギー政策の見通しの甘さや計画性の緩さが根底にあるのは間違いないといわれる。昨年末以来、再び増加傾向に転じてきたコロナ感染拡大への対応とともに電力確保は内政の喫緊の課題として政府に突き付けられている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など