交通事故で、運転者の安全ばかり重視してきた自動走行車に米当局がメス
Keeping Safe From Teslas
さらにメーカーのラインアップは、より車高が高く、重量級のSUVやピックアップトラックへ着実にシフトしている。こうした車は乗っている人には安心感を与えるが、路上にいる人々には脅威だ。
研究者らは、アメリカの道路を走る大型のSUVやピックアップトラックが増えたことで、路上の弱者の死亡事故が増えたと指摘する。一方で車に乗っていた人の交通事故による死者数は、過去40年間で28%減った。
車の安全性を信じるドライバーは、たとえ衝突しても自分へのダメージは少ないと考え、無謀な運転をしがちだ。ドライバーは象1頭分ほどの重さがある大型車に乗ってこの上ない安全性を感じているかもしれないが、衝突されたほうはたまらない。
これまで連邦政府は、歩行者や自転車利用者を保護する対策をほとんど取っていない。自動車メーカーは長年にわたり、連邦政府の規制当局となれ合いの関係を続けてきた。アメリカでは車の衝突に関する安全性の評価にさえ、ヨーロッパ諸国やオーストラリア、日本とは異なり、自動車の設計が歩行者に及ぼすリスクは盛り込まれていない。
バイデン大統領に寄せられる期待
歩行者らの安全を守る取り組みを訴える人々は、ジョー・バイデン大統領に期待を寄せている。バイデンは交通事故で最初の妻と娘を亡くした。NHTSAが属する運輸省の長官に、積極的な仕事ぶりで知られるピート・ブティジェッジが就任したこともあって、期待はより高まっていたが、まだ運輸省は新たな対策を発表していない。
だからこそ、NHTSAがテスラのオートパイロットによる警察や救急隊員に及ぼすリスクの調査を開始したのは、明るい兆しに思える。
今回の調査は単に例外的なものなのか、それとも本物の転機になるのか──その点はまだ分からない。だがバイデン政権が本気で対策に乗り出したのなら、考えられる政策手段はいくつもある。
連邦政府が、歩行者や自転車利用者への安全リスクを査定する衝突評価システムの改正に着手することもあり得る。さらに連邦政府が各州に対し、歩行者や自転車利用者が巻き込まれた衝突事故の場所や状況について、一貫性のあるデータを提供するよう働き掛けることも考えられる。
さらには(これが最も重要な措置になるかもしれないが)、車の速度規制を厳しくするだけでなく、歩道を拡張したり、安全な自転車レーン網を導入する案が各州で支持されるよう、助成金の基準を変更することも可能だろう。