交通事故で、運転者の安全ばかり重視してきた自動走行車に米当局がメス
Keeping Safe From Teslas
連邦政府は長年、運転する側に焦点を当て、路上の弱者については「視認性の高い衣服を着用する」ことを提言する程度の対策しか取ってこなかった。だがテスラに対する調査の開始は、そのアプローチがついに変わるかもしれないという希望をもたらす。
調査の焦点を何にするかという点には、いくつもの選択肢があった。
ネット上には、オートパイロット起動中に車内の人々がトランプで遊んでいる動画などが出回っており、こうした行為がオートパイロットの「想定された乱用」に当たるかどうかを問うこともできた。NHTSAがこれを乱用と判断すれば、リコールを求めることができる。
ドライバーがオートパイロット起動の前提条件として想定した走行環境(いわゆる「運行設計領域」)以外で、このシステムを使用できることも問題視されている。テスラがこれを阻止すべきかどうかを調べる選択肢もあった。
だがNHTSAはこれらの選択肢を取らず、テスラ車が車道上の救急隊員に及ぼす危険に絞って調査を行うことを選んだ。それには理由がある。緊急車両との衝突は比較的まれな状況だが、欠陥のパターンを特定するための実例は十分にあるからだ。
事故当時、運転席には誰もいなかった
NHTSAの調査は、別の意味でも興味深い。こうした衝突事故に焦点を当てることは、テスラ車に乗っていた人々ではなく、衝突された救急隊員を被害者と見なすことになるからだ。テスラ車に乗っていた人々は、オートパイロットを起動した時点で、このシステムのリスクを受け入れたことになるとも言える。
過去の事故が注目を浴びた際、テスラの熱心な支持者はこの「買い主危険負担」を声高に主張した。4月にテキサス州でテスラ車が木に衝突、炎上事故を起こして2人が死亡したときもそうだった(事故当時、運転席は無人だったと報じられている)。救急隊員など衝突された側に、自動運転システムのリスクを受け入れる同意があったと主張するのは、不可能だろう。
これが注目に値するのは、当局がドライバーの安全性を重視する従来の方針から脱却した表れだからだ。
当局がこの点を重視するのには、もっともな理由がある。ユーザーは車を買うときにわが身の安全を考えて、高価な車種や衝突防止機能などの先進運転支援システムのオプションを選ぶことが多い。だが、衝突事故が起きた際に路上の弱者の危険を軽減するための費用までは払いたがらない。そのため自動車メーカーにとって、歩行者や自転車利用者の安全性を目的とした車の設計や技術に投資するインセンティブは小さくなる。