最新記事

自動車

交通事故で、運転者の安全ばかり重視してきた自動走行車に米当局がメス

Keeping Safe From Teslas

2021年9月2日(木)17時54分
デービッド・ジッパー(ハーバード・ケネディスクール客員教授)
テスラ車

テスラ車の売り上げは好調だが運転支援システムの安全性には疑問符が付く TORU HANAIーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<「オートパイロット」への厳格な取り締まりに向けた調査開始で、アメリカの交通政策は歩行者の安全重視へと変わるか>

米高速道路輸送安全局(NHTSA)が、米電気自動車大手テスラの取り締まりに向けて動きだした。過去30件の衝突事故に絡んでいるとみられるテスラの運転支援システム「オートパイロット」の調査開始を、8月16日に発表したのだ。

オートパイロットは、走行中の車線変更や速度調整などを管理するシステム。あくまで運転を「支援」するものだが、多くのドライバーがこれを過信し、完全自律型運転システムのように誤用してきた。

調査は、オートパイロット搭載のテスラ車が少なくとも11回、停車中の緊急車両に衝突した原因に焦点を絞って行われる。その結果次第でNHTSAはテスラに「欠陥」の是正を求めることができ、応じない場合は重い罰金を科す可能性がある。

テスラは電気自動車製造で先駆的な立場にあるが、自動運転をめぐる戦略は以前から無謀だと批判されてきた。米国家運輸安全委員会(NTSB)は長年にわたってNHTSAに対し、テスラのオートパイロットと、それを進化させたフルセルフドライビング(FSD=完全自動運転)の開発を規制するよう働き掛けてきた。

問題は、テスラが他社との競争で優位に立つために、オートパイロットおよびFSDの設計と搭載を優先して安全性を犠牲にしてきたことだ。同社は2つのシステムに紛らわしい名称を付け、ドライバーの過信や誤解を誘った。しかも高性能のドライバー監視システムの導入を拒み、所定の道路状況においてオートパイロットの起動が安全か否かという判断をドライバーに委ねた。

競合各社もいわゆる先進運転支援システムの開発を進めているが、今のところテスラよりもかなり慎重に取り組んでいる。連邦当局が厳しい取り締まりを始めれば、これらの企業がテスラの無謀なやり方をまねしないように促す効果が期待できる。

テスラ車に乗っていなかった側の被害者

NHTSAの調査には、ほかにも期待できる点がある。事故の際、テスラ車に「乗っていなかった」側の人々を重視していることだ。

例えば救急隊員。事故に巻き込まれた人の状態を確認するために、緊急車両を路肩に止めていた場合、そこに突進してくるテスラ車から救急隊員がわが身を守る方法はない。

歩行者や自転車に乗っている人も同じだ。ますます重く、大きくなり、歩行者や自転車利用者のような「路上の弱者」にとってさらに危険になっていく自動車の設計について、彼らは何もできない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中