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福岡市長が、「福岡市から日本を変える」ことにこだわる合理的な理由

2021年7月28日(水)18時31分
flier編集部

2つめの理由は私の死生観によるものですね。生き死にを左右する経験をすると、命の有限性にふれて死生観が変わるものです。戦場で命が失われるのを目の当たりにするとか、大切な人が亡くなるといった経験です。私も学生時代に訪れた中東で銃を突きつけられ、死生観が変わりました。

永遠とは、生まれ変わり続けること。伊勢神宮が式年遷宮をくり返して、いつもみずみずしくあるように、「命のバトン」をつないでいくことだと思います。今回の人生は次の子どもたち、つまり次世代の自分たちのために社会をよくしていきたい。そんな思いが挑戦の原動力になっているように思います。

政治家を志すきっかけとなった「中東訪問」へと導いた一冊の本

── 高島市長のそうした人生観に影響を与えた本、価値観を変えた本はありますか。

高校時代に読んだ、アントニオ猪木さんの著書『たったひとりの闘争』です。湾岸戦争の頃に参議院議員を務めていたアントニオ猪木さんが、イラクで人質となっていた日本人を救出したときの訪問記でした。プロレスへの関心から手にとった一冊でしたが、読み進めるにつれ、当時テレビで報道されている中東の姿と、本の内容が大きく異なることに気づきました。

また、善悪という単純な構図では語れない状況が見えてきたのです。この本との出合いを機に、中東問題について勉強し、大学入学後は「日本中東学生会議」というサークルで中東の学生たちと交流を深めるようになりました。

実際に中東を訪問して知ったのは、日本人がいかに現地の人たちから信頼されているかということ。そこから、誇るべき日本を発展させるべく、政治家として働きたいという志が生まれました。

同時に、真実を知るためには、メディアの情報をうのみにせず、自分の目で確かめることが大切だということも、この本から教わりました。プロレスへの興味から手にとった本でしたが、自分の人生を大きく変えた一冊となりました。

── 今後のビジョンを教えてください。

若い世代が将来に希望をもてる国をつくることです。社会のアップデートが苦手な日本において、リスクをとってでも世の中を変えたいという若者たちを勇気づけることに力を注ぎたい。彼らが挑戦しやすい環境づくりも、私の役割だと自覚しています。

現在の日本は根深い問題を多く抱えていますが、よりよい社会になるためのチャンスがたくさん眠っているともいえます。そのチャンスを逃すことなく、自らの手で未来を創造したいと考えるチャレンジャーたちとともに、私自身も挑戦を続けていきたいと考えています。


高島宗一郎(たかしま そういちろう)

1974年生まれ。大学卒業後はアナウンサーとして朝の情報番組などを担当。2010年に退社後、36歳で福岡市長選挙に出馬し当選。2014年、2018年といずれも史上最多得票で再選し現在3期目。2014年3月、国家戦略特区(スタートアップ特区)を獲得、スタートアップビザをはじめとする規制緩和や制度改革を実現するなど、日本のスタートアップシーンを強力にけん引。福岡市を開業率連続日本一に導く。規制緩和で誘導する都市開発プロジェクトやコンテンツ産業振興などの積極的な経済政策で、政令指定都市で唯一、7年連続で税収過去最高を更新。熊本地震の際には積極的な支援活動とSNSによる情報発信などが多方面から評価され、博多駅前道路陥没事故では1週間での復旧が国内外から注目された。2017年日本の市長では初めて世界経済フォーラム(ダボス会議)へ招待される。

flier編集部

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