福岡市長が、「福岡市から日本を変える」ことにこだわる合理的な理由
戦う相手の動向はどうか、その課題解決にあたる人たちが時間的・能力的に戦いに臨める状況か、自分のポリティカルキャピタル(編集部注:政治家が有権者から得られる支持、意見を通すのに必要な影響力)はどうか。こういったことをもとに、一度に挑戦できる課題を決めて、優先順位をつけています。
また、私は政党に属していないので、制度改正のように議会の同意が必要な場面では、改革を成し遂げるために、同じ志を持った仲間や協力者をつくることが肝になってきます。
政令指定都市という地の利を生かし、挑戦のロールモデルをつくる
── 福岡市は全国に先駆けて行政のハンコレス化を完了させ、福岡都心部を感染症対応シティにつくりかえるなど、まさに挑戦・変革を体現しています。それを可能にしている要因は何でしょうか。
福岡市が、「都道府県とほぼ同等の権限」と「基礎自治体(市町村)としての現場」をあわせもつ「政令指定都市」であることは、大きなメリットでした。しかも福岡市は国家戦略特区でもあるため、国へ規制緩和も提案でき、エリア限定で色々試せるので、成功事例をつくりやすいのです。
── 直近の挑戦の事例を教えてください。
具体的な事例は多数ありますが、その1つは、福岡市のスタートアップであるウェルモと共同で行っている、AIを使った「介護予防ケアプラン作成支援システム」の構築です。
高齢者の状態、病歴、介護支援に関する情報などを一つのプラットフォームにまとめました。そして、過去の膨大なプランや各種データを学習させたAIを活用することで、エビデンス・ベースで精度の高いケアプランを効率的に作成できるようになります。これは日本初の取り組みです。
こうしたシステム構築を実現できた背景には、福岡市が160万人の人口を有しており、多様なデータを収集できること、先進技術を使った民間企業の社会実証を後押ししてきたことがあります。官民が連携したデータ活用のロールモデルをつくることが、国全体を最速で変え、世界の高齢者問題の解決策にもなっていくはずです。
まずは「やってみせる」
── 高島市長は36歳のときに最年少市長となり、挑戦を続けていらっしゃいます。福岡から日本を変えていこうとしている理由は何でしょうか。
理由は2つあります。まず「福岡市から変えること」にこだわるのは、それが日本を変えるための合理的なアプローチだから。
例えば福岡市では、mobby rideと組んで、電動キックボードの実証実験・活用を進めてきました。新しいサービスを一斉に全国展開しようとすると、「事故が起こる可能性が高い」といった、リスクを不安視する声、またその不安を煽る既得権側の動きもあり、途端に進めにくくなってしまいます。
ですが、エリア限定で試して課題を解決し、成功事例をつくっていけば、全国各地に適用しやすくなるのです。人はゼロの状態だと実現するイメージが湧きづらく、行動を起こしにくい。だからまず「やってみせる」こと、そして成功事例をつくることが、変化への近道だと考えています。