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「いつか会社を見返してやる」 そう言って早期退職したシニアたちの哀しい末路

2020年11月11日(水)11時15分
寺田 淳(行政書士) *PRESIDENT Onlineからの転載

感情的な早期退職で消えた「47歳課長」

【事例3】自負心の取り違え
・47歳企画課長

この企画課長は、営業職から企画職に異動し、何度も高い実績を残した企画を手掛けてきましたが、課長職も5年が経つ頃、次第に不満を募らせていったのです。その会社では50歳で課長職というのが平均的で、遅れているどころか人並み以上の肩書だったのですが、本人はこう話していました。

「実際は私一人の企画で、課員はただ私の指示通りに動けばよかったんです、企画力も若手以上に今にマッチしたものを生み出しているんです、これだけの貢献をしたんですよ、自負の一つもあって当然でしょう?」

ですが会社からの評価は正反対でした。

「いくら言っても自分ひとりで全てをやったような錯覚に気付かない」
「あの新製品だったら誰が担当してもあの程度の実績はあがった。そんなことすらわかってない」
「部下に対しての感謝が皆無」

また、「謙遜が無い、空気が読めない」という思いもよらない辛口評価をされていました。

結局彼は早期退職をほのめかせば慰留されると思ったものの、全く顧みられることが無かったことに腹を立てて当てもないのに感情的に早期退職に応じたのです。

「自分ならどこにでも居場所がある!」というのが退職の挨拶だったそうです。

この方とは、残念ながら1年後から音信不通になりました。

「客観的視点が欠けている」という共通点

傍目八目とは言い得て妙でして、第三者の視点で見れば何を間違えたかは明白でしょう。

これらの事例に共通する点のひとつは、客観的視点に欠けている点です。自分ならできるという自信や自負は必要ですが、やはり利害関係のない第三者からの評価を確認することは事実誤認(過信・錯誤)を防ぐ意味でも欠かせないポイントと思います。

【事例1】であれば、在職中に時間をかけて第二の仕事の選択を検討するべきでした。今の会社を離れて何ができるか、どんな仕事なら自信があるかを見直し、再就職時の具体的な職種や業種を設定しておけば、速やかに行動に移れたはずです。

【事例2】では、本人は勝手に再就職の準備は完了したものと思い込んでいた点が問題でした。せめて在職中に、声をかけてくれた会社に対して再就職の可能性をただしておくべきでした。

【事例3】は当人に自信がある分、今と同格かそれ以上の会社への再就職を第一義に考える傾向がありました。肩書にもかなりの執着があったようで、第三者からの評価には全く無関心でした。まさに「唯我独尊」だったことがこの結果を招いたと言えるでしょう。

元常務取締役が、再就職に成功した理由

さて、ごく少数ではありますが、再就職に成功した事例もあります。

【成功例1】自分の強みを考えていた
・60才関連会社常務取締役

「親会社で言えば取締役一歩手前の役職でした。65才までは雇用延長の途もあったんですが片道1時間半の通勤をあと5年も続けるのはちょっとと思い、応募しました」
「工学部出身で現場主義だったこともあり、ここは60の手習いも厭わず現場仕事を探そうと役職・肩書無用で活動をした結果、自動車部品の開発スタッフとして平社員で再就職できました」
「いざ配属されると、そこは自分以外30才以下のメンバーばかりという別次元の職場でした」
「当然、息子以下の年齢のチームリーダーに仕えて現場仕事を始めました」

こう話していた彼が、わずか1年後の人事異動でチームリーダーに昇進しました。

決して出しゃばらず、前歴を鼻にかけない。その一方で、豊富な経験に裏打ちされた提案をし、チームのムードメーカーかつ仕事の生き字引的な存在にごく自然になっていたとのことで、人事評価でも満場一致の昇進だったそうです。

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