奇抜な名前の高級食パン店を大ヒットさせたプロデューサー、そのノウハウを明かす
もともと岸本氏はホテルマンだった。ホテル業界で培ったホスピタリティとおもてなしの心は、現在の仕事にも影響している。また、当時ベーカリー部門のマーケティングを担当したことが、パンの世界に興味を持つきっかけともなった。
2013年、すでに自分のパン屋を開業していた岸本氏に、東日本大震災の津波で大きな被害を受けた岩手県大槌町から、パン屋プロデュ―スの仕事が舞い込んできた。公益社団法人が大槌町の人にヒアリングしたところ、パン屋さんが欲しいという声が多かったという。
そこで岸本氏が大槌町にパン屋を作ったところ、子供から高齢者までたくさんの人が来店。涙を流して感謝してくれる人もいた。街に笑顔が増えていく様子を目の当たりにして、岸本氏は改めてパン屋の持つ力を確信したそうだ。そこから、パン屋をプロデュースすることで日本中を元気にしたいと考えるようになった。
どんな仕事、どんな役職でも「クレイジーであれ」
人生の棚卸しをした、それで自分の個性が見えてきた、でも、それに自信を持てない――そんな人もいるかもしれない。
それでも、岸本氏は「個性というのは思いっきりはみ出るくらい突き詰めたほうがいい」と言う。「クレイジーであれ」というわけだ。「クレイジー」と言っても、派手な服装や行動をしろというわけではなく、「既成概念にとらわれるな」という意味である。
「パン屋というものはこういうものだから」と思ってしまうと、人を喜ばせられるような新しくて楽しい発想は出てこない。岸本氏にとってパン屋とは、おいしいパンを提供するだけでなく、人がその店に来たくなるような、または来店した人が店のことを誰かに話したくなるような「楽しい体験」を提供する場でもある。
どんな仕事でも、役職があってもなくても、その人に適した場所で、ベストな力を発揮するためには、それまでの慣習などに縛られず、自分の仕事が提供できる価値を徹底的に考えて振り切ることが大切だ。覚悟を持って振り切ってしまえば、もし失敗しても納得して次にいけるのだという。
「データ」と「感性」のかけ算がヒットを生む
既成概念と言えば、岸本氏プロデュ―スのパン屋の特徴は、なんといってもその店名である。ユニークなロゴ、パン屋とは思えない店舗のデザイン。初めて見た人が「何これ!?」と思うようなブランディングは「岸本流」の真骨頂だ。
ブランディングを考えるうえでインパクトは重視しているが、ただ目立てばいいというわけではないのだそう。どんな店にするか、どんな風に売り出すのかを具体的に考える前に自分のビジネスの本質に立ち返ることが必要になる。