奇抜な名前の高級食パン店を大ヒットさせたプロデューサー、そのノウハウを明かす
岸本氏は、2013年の大槌町での経験から常に一貫して「老若男女に愛される」「街を元気にする」パン屋を作ろうとしている。そのため、世代や嗜好に関係なく食べてもらえる食パンを販売しているのだ。
このように、自分のこれまでの経験から作りたい店や扱う商品の「コンセプト」と「ターゲット」を明確にしておくことが、何より大切だと岸本氏は言う。
日本の企業でありがちなのが、データに頼りすぎて失敗してしまうこと。確かにデータは大切だ。店の立地や客層など、データを常に気にしておくことは基本中の基本。ただ、それだけでは「売れる商品」にはならない。
ヒットさせるには、その店や商品ならではの個性と付加価値が必要なのだ。その個性や付加価値を生み出すためには、お客さんを迎え入れる店(経営者)の側も、身をもって楽しい体験を積み重ね、自分の中に「幅」を持つことが不可欠になると岸本氏は言う。それがその人の「感性」になる。
また、逆に「感性」だけに頼って失敗しているケースも多い。優れた感性を持った人でも、それを多くの人に喜んでもらえる形に落とし込むにはデータが必要だ。もし奇跡的に感性だけでヒットしたとしても、データなくしてその人気を長く持続するのはかなりの強運がなければ厳しいだろう。
とはいえ、大衆に受け入れられようと「データ」に合わせてしまったら、「感性」は死んでしまうのでは? そんな疑問を持つ人もいるかもしれない。
そのバランスを取り、データを踏まえつつ感性を活かしたビジネスにするために必要なのが、「人生の棚卸し」で見つけた「コンセプト」と「ターゲット」である。その軸さえあれば、データに振り回されることなく、自分だけの感性を表現するのに必要な形が見えてくるはずだと、岸本氏は断言する。
例えば、岸本氏のブランディングの特徴として、すべてに共通しているのが「わかりやすさ」である。奇抜に見えても、ビジネスのターゲットが老若男女問わず、すべての人であるため、店名に小学生が読めないような難しい漢字や外国語は使用していない。
目立つ、今っぽい、オシャレと言った表面的な考え方ではなく、自分の志から導き出されるセオリーが必要なのだ。それがないと、流行に乗っただけの店になるか、奇抜なだけの近寄りがたい店になり、一貫したブランドとしての魅力を持つことができないという。
インパクトがある店名は、「岸本流」ブランディング術、マーケティング術、プロモーション術のごく一部に過ぎない。岸本氏のビジネスノウハウが詰まった本書は、自分にとって仕事とは何か、そして、自分の仕事で生み出すことができる最大の価値は何かまでをも考えさせられる一冊だ。
『「考えた人すごいわ」を考えたすごい人』
岸本拓也 著
CCCメディアハウス
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