最新記事

企業統治

フォルクスワーゲン前CEOが築いた「畏怖と尊敬」の独裁ビジネス

常に最高の結果を従業員に求めた “独版ジョブズ ” ウィンターコルンの実像

2015年10月14日(水)11時44分

10月10日、マネジャーに対する独VWの尋常でないプレッシャーが、今回の危機を引き起こした原因の1つだとする批判的な声もある。写真は引責辞任したウィンターコルン前CEO。独ハノーバーで4月撮影(2015年 ロイター/Wolfgang Rattay/Files)

 排ガス不正問題で先月引責辞任した独フォルクスワーゲン(VW)のマルティン・ウィンターコルン前最高経営責任者(CEO)は、他の多くのCEO同様、失敗を好まない厳しいリーダーだった。

 だが、マネジャーに対する同社の尋常でないプレッシャーが、今回の危機を引き起こした原因の1つだとする批判的な声もある。

 不正を認めてから約3週間が経過したが、欧州最大の自動車メーカーである同社は、その責任者を特定するよう圧力にさらされている。

 不正の要因となったのは、同社の企業文化なのか、それともウィンターコルン氏の経営スタイルなのかについて、VWはコメントを控えている。同氏の弁護団もコメントを差し控えた。

 だがVWの問題が露呈し、ウィンターコルン氏が辞任した現在、一部の同社幹部は経営手法を変える必要があると明言している。

 マイケル・ホーンVW米国法人社長兼CEOは米下院公聴会で、不正がVWの健全さについて何を物語っているかについて聞かれると、「われわれはプロセスを合理化しなくてはならない」と回答。

「VWは一貫性を保つためにこの機会を利用し、よく学ばなければならない。全世界の従業員60万人はこれまでとは異なる方法で管理される必要がある。これは非常に明白だ」と語った。

 VW監査役会メンバーで、労働者組織の代表を務めるベルント・オスターロー氏はさらに明快に述べている。不正発覚から約1週間後の9月24日、同氏は従業員宛ての書簡で以下のように語っている。

「われわれは将来、問題が隠ぺいされることなく、上層部と率直に話し合いのできる企業風土が必要だ」

 ロイターが取材した5人の元VW幹部と業界に詳しい専門家らは、ウィンターコルン氏の経営スタイルが、恐怖に支配された環境、そしてドイツ自動車業界に特有な企業構造もあいまって野放し状態の独裁体制をつくり上げたと口をそろえる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、ミシュスチン氏を首相に再任命 下院

ビジネス

中国自動車輸出、4月は過去最高 国内販売は減少に減

ワールド

UNRWA本部、イスラエル住民の放火で閉鎖 事務局

ワールド

Xは豪州の法律無視できず、刃物事件動画訴訟で規制当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中