最新記事

企業統治

フォルクスワーゲン前CEOが築いた「畏怖と尊敬」の独裁ビジネス

2015年10月14日(水)11時44分

「フォルクスワーゲンの文化と組織的構造は特殊で、ダイムラーやBMWと比較できない。VWから聞こえてくるのは、同社には特別なプレッシャーがあるということだ」と、デュースブルク・エッセン大学自動車研究センターのフェルディナント・ドゥーデンヘッファー所長は指摘する。

 辞任した際に不正を認識していなかったと語ったウィンターコルン氏の弁護団は、これについてコメントしなかった。

機能しなかった監査役会

 すべてのドイツ企業には2つの役員会がある。1つはCEOが率い、日々の業務を運営する取締役会。もう1つはその上にあり、CEOが報告する監査役会だ。監査役会は取締役会メンバーを任命したり解任したりすることができ、主要な戦略的決断には監査役会の署名が必要となる。

 ドゥーデンヘッファー氏によれば、このシステムはVWでうまく機能していなかったという。「ダイムラーやBMWの監査役会は、CEOをコントロールできているが、VWではそうはいかなかった」と同氏は指摘した。

 VWの監査役会は20席あるが、法律的な要件を満たすため、労働者側と株主側にそれぞれ平等に9席ずつ割り当てられている。

 だがVWは、他のドイツ自動車メーカーとある点で異なっている。つまり、同社が拠点とする独ニーダーザクセン州に監査役会の2席が与えられている。一方、メルセデス・ベンツを製造するダイムラーやBMWは、自社の監査役会に政治家は含まれていない。

 ニーダーザクセン州と労働者側の代表者は目標を共有していると、業界に詳しい専門家たちは指摘する。その目標とは、同州最大の雇用主の1つであるVWの雇用を守ることだ。結果として、雇用さえ守られるのであれば、CEOには比較的自由な裁量が与えられる。

 VWではコーポレートガバナンスが向上していなかったと、ドイツ銀行アセット・ウェルスマネジメント部門のヘニング・ゲブハルト氏は指摘する。

 労働当局者とVW監査役会のニーダーザクセン州代表者は、この件についてコメントしなかった。

たたき上げ

 一方、ウィンターコルン氏を支持する人もいる。VW米国法人のマーク・トラハン元上級副社長は、ウィンターコルン氏とエンジニア幹部の一部が不正を容認したとは考えられないとし、「個人的にウィンターコルン博士を知っている。エンジニアたちのことも知っている。米国の法律を犯していると知っていたなら、彼らが許すわけがない」と語った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CATL株下落、24年は減収・利益鈍化の見込み

ビジネス

大型案件が米政権に歓迎されるのは望ましい=SBGな

ビジネス

ECB利下げ支持、今後2会合で─蘭中銀総裁=ブルー

ワールド

焦点:トランプ米政権、結束した敵対勢力に直面 外交
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 8
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 9
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 10
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中