ギリシャ新首相を待つ神経戦の行方
現代版ダモクレスの剣
いわゆる「Grexit(グレグジット、ギリシャのユーロ圏離脱)」が現実のものになれば、ユーロ圏全体が新たな危機に直面しかねない。ユーロ圏が崩壊したら世界経済はどうなるのかという底知れぬ恐怖も広がるだろう。
しかし不可能を可能にする道は皆無ではないようだ。
「合意できなければ、グレグジットという最悪の事態になる。だからギリシャの新政権にもユーロ圏諸国にも、それだけは避けたいという気持ちが強い」と言うのは、ブリュッセルにあるシンクタンク、ブリューゲルの上級研究員ツォルト・ダルバスだ。「グレグジットは、交渉のテーブルの上につるされた『ダモクレスの剣』(危険と隣り合わせにある状態の例えに使われるギリシャの故事)だ」
ダルバスによると、ギリシャ債務の金利を引き下げ、返済期間を延ばし、その一方で財政赤字に関するEUの規則を緩和すれば、新政権にもいくらか財政的余裕ができ、貧困の救済や公共事業に投資できるという。
先月末にブリュッセルで開催されたユーロ圏財務相会合でも、事態打開の可能性が示された。EU経済・財政委員会のピエール・モスコビシ委員はこう語った。「私たちには共通の目標がある。ギリシャが独り立ちして財政問題を片付け、再び雇用を生み出す国になることだ」
今は威勢のいい発言をしているツィプラスも、当面は債権国に頭を下げ、支援継続を頼むしかない。EUやIMF(国際通貨基金)からの支援が断たれれば、ギリシャの国庫はあと3カ月で空っぽになる。
ちなみにEUは、新政権の外交政策にも不安を抱いている。連立与党は共にロシア寄りなため、ウクライナ情勢をめぐってロシア政府への強硬姿勢を強めるNATOやEUに抵抗する可能性がある。現にツィプラスはロシア政府に歩調を合わせ、ウクライナ政府を「ファシスト」と呼んだ。連立を組むANELのパノス・カメノス党首に至っては、選挙運動中にEUの対ロシア制裁の完全解除を求めた。
ギリシャとEUは、全面的な神経戦に突入したようだ。
[2015年2月10日号掲載]