中国外交トップ「チンピラ発言」の狙いは自分の出世?
中国国内受けを狙った「反米演説」
例えば彼は演説の冒頭にまず、中国の全人代の話をした。「第14次5カ年計画」や「脱貧困」の話もして、「中国人民が習近平主席の周辺で緊密に団結している」とも語った。しかしこれらの話は全く中国国内の話であって米中関係とも、米中会談とも関係ない。中共政権の幹部たちは国内向けの演説やスピーチにおいて、このような決まり文句を発言しなければならない。米中外交トップ階段で楊氏は、まさに国内向けのつもりで話していたのである。
国内関連の話を終えて楊氏は今度、舌鋒をアメリカの方に向け、アメリカ国内の人種差別問題などを持ち出してアメリカ批判を展開した後、「中国はアメリカの価値観を国際社会の価値観として認めない。一部の国の作ったルールを国際社会の共通ルールとして認めていない」と発言して、アメリカ主導の国際秩序を頭から否定する考えを示した。
その上で彼はまた、台湾問題・新疆問題・ウイグル人問題などにも触れて、それらはまったく中国の内政問題だと言い切った上で、内政問題に対するアメリカの干渉には断固として反対するとの立場を強く表明した。
そして楊氏の口から、外交の場ではほとんど聞くことのない2つの簡潔にして激しい言葉が吐き出された。1つは、彼が強い口調で言った「アメリカには高いところから中国にものを言う資格はない」であり、もう1つは「中国人はその手を食わない」というものだ。
上から目線で高いところからの「お叱り」
前者は、会談相手のアメリカ人に対する面罵そのものであって、上目線の「高いところ」からの容赦のないお叱りでもある。一方、中国語の原文で「中国人不吃这一套」という後者の言葉は、中国人が相手に対する拒絶を表明する際に使う最大級の強い言葉である。街のチンピラが喧嘩する時に使うような表現であって、公式の文章やスピーチでは使わないし、ましてや外交の場面で使われるような言葉では決してない。
しかし、この2つの「非外交的」な表現が中国外交トップの口から堂々と吐かれた。そして、中国国内での受けはとても良かった。楊氏の発言が当日のうちに中国に伝わってくると、人民日報のウェブ版を含む多くのメデイアはこの2つの言葉だけを選び出して、日本のスポーツ紙が一面トップでよく使うような特大な活字を使って大々的に伝えた。この2つのキャッチフレーズは全国のネット上で大反響を呼び、一瞬にして「熱門話題(ホットな話題)」になった。米中会談直後の21日、この2つの言葉をプリントしたTシャツの販売が早くもネット上で始まった。
前述のように、楊氏の口から吐かれたこの2つの表現は力の強い言葉ではあるが、本来外交の場面で使われるようなものではない。しかし、中国外交のトップがアメリカの高官に向かって発したこの2つの言葉は、力強い表現であるだけに、そしてふざけた表現であるだけに逆に多くの中国人にとって痛快で、彼らの心に強く響いた。「ほら、わが国の外交トップは、チンピラでも叱っているようにアメリカ人を面罵したのではないか」と、中国全土のネット民はまさに狂喜乱舞の興奮状態になった。
おそらくそれこそ楊氏が最初から意図した展開であって、彼はまさに、国内でのこのような受けを狙って前述の冒頭演説を打ったのに違いない。異常にして異例な米中会談の冒頭演説は、最初からは楊氏の自作自演、国内向けの演出だった。
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