コラム

中国経済のV字回復が疑わしいこれだけの理由

2020年04月21日(火)18時47分

「リベンジ」は期待外れに

「ポスト新型肺炎」の中国経済回復を阻害するもう一つの大きな要素はすなわち、国内消費の相変わらずの低迷である。

今年1月、2月に新型肺炎の蔓延で全国多くの都市部で外出禁止となったり都市そのものが封鎖されたりする中、個人消費が激減したのは当然の結果である。実際、1~2月の全国の小売総額は20.5%減となった。

3月になり、都市部の外出禁止と封鎖が徐々に解除されて人々が一斉に外に出ると、国内消費が急速に回復するのではないかとの期待が高まった。この時から中国では「報復性消費(消費のリベンジ)」という言葉が一部専門家やマスコミによってもてはやされ、人々の期待をさらに膨らませた。

「報復性消費」とは要するに、 1~2月の外出禁止中に「籠城生活」を強いられた人々が我慢して消費できなかった分、3月から自由に外出できるようになるとまるでリベンジするかのように爆発的な消費行動に走るだろう、という意味である。そして、中国経済はこの追い風に乗って急速なV字型回復を成し遂げるだろう、との期待も言葉に込められていた。

しかし3月から4月中旬にかけて、中国全国の消費動向を見ていると、「報復性消費」は結局期待外れとなっていることが分かる。

3月の全国の小売総額は15.8%減だった。減少幅が1~2月のそれより縮まったものの、「報復性消費」の気配はどこにもない。例えば個人消費のもっとも大きな項目である自動車消費の場合、3月の全国の新車販売台数は前年同期比43.3%減で、一向に「報復」されていない。

そして4月になると「報復性消費」に対する人々の期待はますます弱まり、この言葉自体がマスコミや専門家の口から消えつつある。北京や上海も普通の生活に戻りつつあるようだが、繁華街の店舗は依然として大半が閉まったままの状況で人の流れが回復していない。

一体どうして「報復性消費」はやって来なかったのか。外出禁止や封鎖が解除された後でも、どうして中国の国内消費は一向に回復しないのか。

その理由の一つは当然、前述した生産再開の遅れとは大いに関係がある。多くの生産メーカーが仕事もなく一時休業や倒産に追い込まれている中で、失業が大量に発生していては消費が回復されるはずもない。失業の大量発生以外に、経営不振に陥った多くの企業が賃下げを断行している最中だから、それはまた人々の消費能力と消費意欲の低減につながる。

そして中国国内での感染拡大がいつになれば完全に終息するのか、その世界的広がりがいつ止まるかは今なお分からない。こうした中で、中国国民は未来を予測できないし、自国経済の今後に対する期待も持てない。一般国民の心理として、お金を思い切り使って大いに消費するより、将来への不安から貯金に励むのは当然である。実際、共産党機関紙の人民日報が3月4日に掲載した記事によると、あるネット世論調査によれば4万人の中の3万人程度が「報復性消費せずに貯金する」と答えたという。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国が対米報復関税、小麦などに最大15% 210億

ビジネス

中国、半導体設計で「RISC─V」の利用推奨へ=関

ワールド

欧州委、8000億ユーロ規模の防衛計画提案 共同借

ビジネス

トランプ政権の関税措置発動、企業の不確実性は解消せ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story