コラム

環球時報社説が語る習政権「台湾統一」の行き詰まり

2020年01月16日(木)17時00分

台湾総統選の結果は、中国と習近平政権にとってこれほど大きな失敗だった。滅多にないような歴史的な惨敗だからこそ、環球時報でさえそれを認めざるを得ず、中国の実力をわざと貶めるようなことまでして、政権の弁護に躍起にならざるを得なかった。

「一国二制度の台湾統一」にあえて触れなかったことも興味深い。環球時報によるこの「意図的無視」は、習が台湾統一の「決め手」として打ち出した「一国二制度案」はすでに失敗に終わっていることの証明であると同時に、「それがすでに失敗している」と言う認識が政権内でも広がっていることを示した。

習自身は当然、この失敗を絶対認めたくない。自らの打ち出した「一国二制度の台湾統一」という政策的看板を下ろす訳にもいかない。現に、国務院台湾弁公室は15日に記者会見で「一国二制度による台湾統一」の方針継続を明言した。

ならば、武力による台湾統一に踏み切るのか。総統選が終わってからのこの数日間、中国当局や官制メデイアからはそんな論調は一切出ていない。環球時報の胡錫進編集長も12日、自らの「微博」に短文を掲載し、ネットの「武力統一論」を「現実的ではない」と一蹴した。

「一国二制度による統一」政策の失敗を分かっていながらも方針転換はできず、武力行使にも踏み切れず、新しい政策を打ち出すこともなく、ただ茫然自失に陥っているのが今の習と政権の現状である。台湾人が勇敢に示した大いなる民意の前で、彼らの台湾工作も台湾政策も完全に行き詰まっている。

20200121issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年1月21日号(1月15日発売)は「米イラン危機:戦争は起きるのか」特集。ソレイマニ司令官殺害で極限まで高まった米・イランの緊張。武力衝突に拡大する可能性はあるのか? 次の展開を読む。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪賃金、第1四半期は前期比+0.8% 市場予想下回

ビジネス

仏成長率、第2四半期は小幅に 5月に休日多く=中銀

ビジネス

インフレなお高水準、まだやることある=カンザスシテ

ワールド

アルゼンチン中銀、政策金利を40%に引き下げ イン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story