コラム

環球時報社説が語る習政権「台湾統一」の行き詰まり

2020年01月16日(木)17時00分

環球時報は一体どうして、政権の失敗を認めるような「愚挙」に出たのか。その理由はやはり、習近平政権の対台湾政策が失敗しているという認識が国内ですでに広がっていることにあるだろう。つまり環球時報が認める前から、みんなとっくに知っていたわけである。

実際、環球時報はこの社説の中ではこうも書いている。

「国内のインターネット上では、一部の人々が蔡英文の再選を大陸の対台湾政策の『失敗』だと見なしているが、このような見方は大陸の力に対する過大な評価と期待を反映している」

あれほどの情報操作と情報封鎖をやっていながら、こういう認識が中国国内で拡散しているのは、習政権にとってはむしろ蔡英文再選以上の衝撃であろう。だから環球時報は「失敗」を認めた上で、「このような見方は大陸の力に対する過大評価」と、習政権の弁護を始めたわけである。

そして政権弁護の弁として、環球時報は「われわれの好き嫌いで台湾選挙の結果が決まるのであれば(それに越したことはないが)、しかしそれは大陸によほどの実力があっての話であって、今の大陸にとってそれは現実ではない」との意味合いのことを書いた。

「今の中国は実力不足」という告白

つまり、環球時報はここで蔡英文を再選させたのも台湾政策が失敗したのも習政権の失策によるものではない、今の中国にはそれだけの実力がないからそうなるのも仕方がない、と言いたかった。普段から国威高揚の宣伝に努めてきた環球時報がここにきて、中国の実力の無さを素直に認めるのは実に珍しい。逆に言えば、環球時報ですらもはや自国の実力を貶めて台湾に影響を及ぼす力のないことを認める以外に、現政権を弁護する方法はないと考えているのだろう。

しかし、台湾の情勢を左右する力もない中国が今後、一体どうやって「祖国統一」を実現するのか。当の環球時報社説は何の具体策も打ち出していない。しかし一方で、社説にはもう一つ重要なポイントが隠されていた。

それは社説が何を言ったのかにあるのではなく、何を言わなかったかにある。社説は実は「一国二制度」という言葉に一切触れなかったのである。

周知のように、「一国二制度による台湾統一」こそ、習主席が去年の1月に打ち出した台湾政策の核心的内容であり、習政権の台湾政策そのものである。しかし環球時報の社説は台湾問題を論じる中でそれを一切無視した。共産党機関紙の人民日報系の新聞紙にとっては異常事態というしかない。環球時報は「一国二制度の台湾統一」はすでに失敗に終わったと認識していながら、政権の体面を保つ一心で習政権の政策失敗にあえて触れなかったのだろう。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story