コラム

環球時報社説が語る習政権「台湾統一」の行き詰まり

2020年01月16日(木)17時00分

台湾人の民意は「蔡英文」だった(1月11日、南部・高雄市の開票所)Ann Wang-REUTERS

<過激な論調で有名な中国共産党機関紙系のタブロイド紙・環球時報が台湾総統選の「敗北」を素直に認めた。なぜか>

1月11日の台湾総統選の結果を受け、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は13日と14日の2日連続でこれに関する社説を掲載した。

globaltimes0113.png

環球時報の1月13日の社説


蔡英文陣営の展開する選挙戦を「汚い小細工」だと罵倒した新華社通信の論評と同様、13日の環球時報社説は蔡氏の圧勝を「中国の脅威を煽り」「韓国瑜を中傷した」ことの結果だと矮小化して、それが台湾の民意であることを認めなかった。

しかし翌14日の社説で環球時報の論調は一変した。

globaltimes0114.png

環球時報の1月14日の社説


「台湾情勢の総態勢を実事求是(客観)的に見る」と題するこの日の環球社説は冒頭からこう書かれている。

「台湾選挙で蔡英文が高い得票で再選し、民進党も立法院での過半数議席を勝ち取った。われわは、そこから反映された台湾の民意の動向を客観的に解読し、台湾社会に対するわれわれの全体認識の正しさを確保すべきだ」

つまり環球時報はここでは渋々、台湾選挙の結果が「民意の反映」であると認めた。わずか1日前の社説とは180度の評価の転換である。

そして社説はこう続く。

「蔡英文と民進党が選挙戦においてもっとも多く訴えたのは『恐中(中国に恐怖を感じること)』と『拒統(中国との統一を拒否すること)』であるが、選挙の結果は、台湾社会の大多数の人々がこのような認識を基礎とする政治路線を支持していることを示した」

中台関係史上、前代未聞の出来事

環球時報は一歩踏み込んで、中国への恐怖は大多数の台湾人の共通心理だと認めた。それと同時に、この大多数の台湾人(すなわち台湾の民意)が、中国が提唱している「祖国統一」を拒否していることも間接的ながら認めた。

これは中台関係の歴史上、前代未聞の出来事である。

鄧小平時代以来、台湾の「祖国統一」は歴代共産党政権の一貫した方針、国策である。そして共産党政権は「祖国統一こそは台湾人の利益であって台湾の未来」と主張し続けてきた。

しかしここにきて、共産党系の新聞が事実上「台湾の民意は統一反対である」と初めて認めた。しかし台湾の民意が「統一反対」なら、それは共産党政権の今までの対台湾政策と台湾工作が完全に失敗したことになる。環球時報は政権の失敗を認めつつ、国内向けにそれをさらけ出したのだ。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ジャクソンホール会議、8月22─24日に開催=米カ

ビジネス

米国株式市場=最高値更新、CPI受け利下げ期待高ま

ビジネス

米シスコ、5─7月期売上高見通し予想上回る AI支

ワールド

ニューカレドニアに非常事態宣言、暴動の死者4人に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story