香港長官「条例撤回」は事実上のクーデター
奇妙な動きの1つはまず、ロイター通信が8月30日、中国政府が林鄭による「改正案撤回」の提案を拒否したと報じたことである。
ロイターが「複数の関係筋」の情報に基づいて報じたところによると、林鄭は今年夏、抗議デモの参加者が掲げる5大要求について検討した報告書を中国政府に提出し、「逃亡犯条例」改正案を撤回すれば抗議デモの鎮静化につながる可能性があるとの見解を示したという。しかし中国政府は、改正案の撤回に関する林鄭の提案を拒否。5大要求の他の項目についても要求に応じるべきではないとの見解を示した。
ロイターが報じた内容を中国政府は一切否定していないから、おそらく事実なのであろう。ここでの問題は、「複数の関係筋」が一体何のために、中国政府と香港政府との極秘のやり取りをリークしたのか、である。
まず考えて見るべきなのは、一体誰がこのリークの受益者となっているかであるが、その答えは簡単だ。林鄭こそがまさにその受益者である。
中国政府に改正案撤回を提案したことが明るみに出たことで、林鄭は一転して香港のために精一杯頑張った良き行政長官になった。それだけでなく、それ以降の混乱拡大に対する責任の大半からも逃れることが出来る。逆に、林鄭からの提案を拒否したと報じられた中国政府は混乱拡大の最大の責任者とされ、大変な窮地に追い込まれた。
もしそうなら、このリークこそ林鄭が中国政府を自分の考える方向へと追い詰めるための、いわば「林鄭クーデター」の第1ステップであると考えられよう。
英語で発言した理由
そして「林鄭クーデター」の第2ステップは、9月3日までに非公開会合における林鄭の重大発言が同じロイター通信にリークされたことである。
ロイターは今月2日、林鄭が実業界の首脳たちとの非公開の会合で「可能なら辞任したい」と発言したと報じた。さらにロイターは3日、約30分間におよんだ林鄭発言の録音の24分間を公開。発言のほぼ全容を明らかにした。
その中で林鄭は、「もしも自身に選択肢があるなら」と断った上で「まずは辞任し、深く謝罪することだ」と述べたうえで、香港の混乱は中国にとって国家安全保障・主権の問題となっているため、自身によって解決する余地は「非常に限られている」と説明した。
彼女はさらに「残念ながら憲法で2つの主人、つまり中央人民政府と香港市民に仕えなくてはならない行政長官として、政治的な余地は非常に、非常に、非常に限られている」と、自らの深い苦悩を吐露した。
「中央政府が撤回提案を拒否した」という情報をリークしたとの同じように、林鄭とその周辺が内部発言を報道機関にリークした可能性は高い。リーク先は前回同様ロイター通信だ。もう一つ、林鄭はこの内部発言を英語で行った点も注目すべきだ。
彼女の話す相手は香港の実業界であったから、本来、香港人が親しんでいる広東語で喋っていても良さそうだ。わざと英語で話したのは、まさにロイターにリークしやすくするための工夫ではなかったか。
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