コラム

トランプが恩赦を連発する意図とは(パックン)

2018年06月15日(金)17時30分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE

<自分の支持者に恩赦を与え、疑惑の関係者に自分を守るようメッセージを出しているトランプ>

Pardonは恩赦。裁判で有罪になった人を独断で許すことは米大統領の特権だ。犯罪者を解放するので、極めて慎重に行使されるものだ、普通は。ジョージ・W・ブッシュやバラク・オバマは大統領就任から2年ぐらいたって初めて恩赦の権限を使った。一方、ドナルド・トランプ大統領は1年と数カ月の間に6人を恩赦。次は「カリスマ主婦」マーサ・スチュワートに与えるという噂もあり、まるで整理番号のように配っていると風刺画が指摘している。

しかも、トランプが恩赦を与えるときは司法省のガイドラインに従わず、本来の手続きを踏まず、場合によっては本人からの恩赦申請を待たずにやったりする。つまり頼まれてもいないのに、大統領が率先して恩赦を与えている。サンタよりも優しい。手紙を書かなくても、クリスマスを待たなくてもプレゼントがもらえる。しかも、いい子じゃなくても!

トランプの恩赦には特定の傾向がある。対象者はトランプの支持者であること。FBIや特別捜査、またはニューヨークの連邦検察によって取り調べられ、起訴されていること。または捜査官に嘘をついたり、司法妨害に問われていたこと。全部じゃないが、この3つの条件は複数の恩赦の案件に共通している。

そこから逆算するとトランプの狙いがうかがえる。トランプ自身をめぐる捜査が今現在FBIの特別捜査やニューヨーク連邦検察によって行われている。その関連で、元安全保障担当大統領補佐官のマイケル・フリンや元トランプ陣営選挙対策本部長のポール・マナフォートなどトランプの側近4人が逮捕され起訴された。トランプの個人弁護士のマイケル・コーエンも家宅捜索を受けた。みんな脇役にすぎないが、司法取引大国の定番としては、脇役の求刑を軽くしたりする代わりに主人公に関する証言を引き出すことができる。

トランプはこれまでの恩赦を通して、「俺の支持者が偽証しても、裁判命令に従わなくても、司法妨害をしても、俺が解放してやる」というメッセージを伝え、自分に都合のいい証言を促しているようだ。法を守らなくても、トランプを守れば大丈夫! 捜査が続くなか、恩赦が欲しい人が行列を作りそうだ。

おまけに、先日トランプは自分自身にも恩赦を与えられる「絶対的な権限」を主張した。風刺画でご満悦の様子の大統領。自分の「恩赦整理番号」はもう確保済みなのではないか。

【ポイント】
TAKE A PARDON

恩赦整理番号をお取りください(「Take a number = 番号札をお取りください」にかけている)

<本誌2018年6月19日号掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story