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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
中国の花見も梅・牡丹より今は桜
(c)2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<もともと中国人は伝統的な美意識を代表する梅や牡丹の花が好きだったが、最近は日本の影響で各地に桜の名所ができて賑わっている>
2年前の3月、渋谷109 の大型スクリーンに広告が流れた。「武漢/世界の桜の郷/武大へ花見にいらっしゃい!」
「武大」は中国・湖北省の武漢大学。大学内には昔、戦争中に日本軍が植えた「国恥の桜」と、日中国交回復後に友好の印として植えた「友好の桜」の計1000 本以上の桜がある。この数十年、ネットの普及で「武大桜」は人気が広がり、中国の花見の名所になった。多いときには1日20万人が殺到して、花見客が花びらより多いと揶揄されたこともある。
でも、武大桜はもう人気を独占できない。中国各地に次々と桜の名所ができたから。北京市にある玉渊潭公園や上海の魯迅公園への花見客は多く、また昨年開園した杭州の桜花園では6万本が植えられ、今年も桜祭りでかなりにぎわっていた。
もともと中国人は梅や牡丹(ボタン)が好き。梅は寒い冬にりりしく咲く姿がとても高潔で、花の君子として賛美されている。また牡丹もその存在感たっぷりの華麗な姿で花の王者と言われている。これらは中国の伝統的美意識を代表する花で、個性と自己主張が強い中国人に実によく似合っている。
でも、梅と牡丹は近年桜に負けているらしい。これは中国のネットを覆い尽くす桜の開花情報を見ると分かる。梅と牡丹はこんな待遇ではない。代表的な桜のソメイヨシノは1つ1つが繊細で、何千何万もの花が一斉に咲いて一斉に散っていくのは迫力があって美しい。個人的でなく団体的な花だから、日本人の集団的性格によく似合っている。
でも、こういう集団的性格の花が今は中国で大人気。「桜の花の落ちるスピードは秒速5センチメートル」という新海誠作品のセリフを中国の若者たちは皆知っているらしい。漫画・アニメをはじめ、日本文化の影響を受けている中国の若者たちは桜が好き。反日の愛国青年も、桜の原産地は中国だ、日本じゃなくてもともと中国の花だよと主張する。
美しいものに国境はない。ただ、やはり中国人は梅と牡丹を冷遇しないでほしい。それこそ中国人の個性と心だから。それに桜の起源は中国だと言っても、ソメイヨシノは日本人が人工的につくったクローン品種で中国とは全く無関係だ。
【ポイント】
『秒速5センチメートル』
2007年に公開されたアニメ映画。冒頭に「ねえ、秒速5センチなんだって、桜の花の落ちるスピード」というヒロインのセリフがある
桜の原産地
日本の専門書『櫻大鑑』は、中国、朝鮮半島、日本が陸続きの時代にヒマラヤのサクラが日本に東進して種類の分化が行われた、と記述している
<本誌2017年4月24日号掲載>
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