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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
アマゾン誘致は「身を売る」覚悟で
©2017 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE
<アマゾンの第2拠点建設に全米各都市が誘致合戦。なりふり構わぬその姿は、まるでハリウッドでセクハラ被害に遭う新人女優たちのように悲しい>
オンライン通販最大手アマゾンが第2本部の建設地をコンペ形式で決めると発表してからの候補地同士の「誘致合戦」はすごかった。10月中旬の締め切りまでに238件の提案があったようだが、バニティ・フェア誌などが伝えたように行き過ぎも目立った。
ミズーリ州カンザスシティーの市長はアマゾンに商品1000個を注文し、レビューを書いた。全部5つ星だったのは偶然か。15ドルの風鈴は「全世界が僕のためだけに歌ってくれているように感じる」というおべっかぶり。誘致が失敗したら全部返品するの?
ニュージャージー州は単刀直入に70億ドル分の特別減税を提案。アマゾンで注文ではなく、アマゾンを注文したつもりなのだろう。ジョージア州の小さな町ストーンクレストは、町名をアマゾンに変える案を出した。町長はアマゾンCEOのジェフ・ベゾスにするらしい。ブラジルに行かなくてもアマゾンに暮らせるってことだ。といっても、ジョージアだけどね。
風刺画で擬人化されているペンシルベニア州ピッツバーグ市(PGH)も頑張っている。あるレストランはアマゾンの社員全員にサンドイッチをプレゼントすると申し出た。しかし、新本部ができたら市内の家賃が上昇し、10年間で1万ドル近く多く払う人が出るとの試算も。サブプライムの次はアマゾンプライムで不動産バブルが起き得るわけ。そこまでして誘致する必要はない、という主張もある。
さて、次に触れるのは力とセックスの関係性を示す比喩的表現。言語や文化への理解を深めるために必要なので、実に不愉快な話だがお付き合いください――。Casting Couchというのは、映画などのキャスティング・ディレクターがオーディションに来た女優に、出演を交換条件にセックスを強要するときに使うソファのこと。そこに座っているピッツバーグ市はアマゾン誘致のために、身を売ろうとしているわけ。
セックスが力関係を象徴するものとして、こんなふうに表現されるのは悲しいが、それが現実。大物プロデューサーのハービー・ワインスティーンが数十年にわたり多くの女優にセクハラや性的暴行を繰り返した疑惑が出ている今こそ、こんな表現も、その裏にある実態もアメリカからなくしたい。
【ポイント】
HQ2 AUDITIONS 第2本部オーディション
PGH ピッツバーグ( Pittsburgh)
RESUME 履歴書
OK...THIS IS BEGINNING TO MAKE ME UNCOMFORTABLE!
「ええと......なんだか落ち着かないんですが」
<本誌2017年11月21日号掲載>
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