コラム

ウクライナ戦争1年、西側メディアが伝えない「それでもロシアが戦争をやめない訳」

2023年02月21日(火)17時50分

国民は政府の強権化も支持

私がこうした「プーチン主義」の発想を明確に認識したのは、あるリベラル派のロシア人と話したときだった。その人物によれば、リベラル派のロシア人も、ロシアが超大国ではないという考えは受け入れられず、反プーチン派も内心ではウクライナの敗北を望んでいる。ロシア人はほぼ全員、自国が特別な国であり、帝国のように振る舞う資格があると考えているというのだ。

しかし現実には、ロシア人の祖国への誇りを揺るがす事態が起きている。国境を接する隣国の中国は、GDPも人口もロシアの10倍、軍事予算は5倍に達する。しかも、欧米はロシアになんの相談もなく、ロシアの長年の同盟国であるセルビアに空爆を行い、ロシアの抗議をあざ笑うようにイラクをたたきのめした。

この状況では、筋金入りのリベラル派ですら、国際社会におけるロシアの地位向上を望まずにはいられない。その点、ウクライナとの戦いに勝てば、ロシアの強い意志と徹底した冷血さ、さらには常軌を逸したまでの非合理さを欧米に印象付けることができる。その上、ロシア国民はロシアが超大国の後継国なのだと確認できる。

私は当初、この人物がリップサービスでわざと過激なことを言ってみせたのだろうと思っていた。しかし、ロシアの大学の同僚の中でも最も頭脳明晰で、不思議な予測能力を持っている人物の言葉を聞いて、考えが変わった。

その人物いわく、プーチンはウクライナだけでなくモルドバものみ込むつもりでいて、その後はさらに東欧も支配下に置き、ヨーロッパに冷戦時代の「鉄のカーテン」を復活させようとしているというのだ。

この見解を聞いた私は、ロシア国内ではこうした動きを支持するムードが高まっているに違いないと思うようになった。もっと言えば、プーチンが権力を保ち続けるためには、そのような行動が不可欠な状況になっているのかもしれない。

国民の気持ちが欧米との戦いに向いているとすれば、絶対権力者の地位を維持したいプーチンは、NATOをポーランドやリトアニアより西に追い払い、旧ソ連時代の影響力圏を取り戻さなくてはならない。

欧米メディアはいまだに、ウクライナ戦争に関してプーチンの誤算とロシア軍の失態ばかりを報じている。しかし、ロシア国内でのプーチンの支配力が開戦前よりむしろ強まっていることは間違いない。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独成長率、第4四半期速報0.1%減 循環・構造問題

ワールド

米国の新たな制裁、ロシアの石油供給を大幅抑制も=I

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、11月は前月比+0.2%・前年

ワールド

インドネシア中銀、0.25%利下げ 成長支援へ予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    韓国の与党も野党も「法の支配」と民主主義を軽視し…
  • 7
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 8
    【随時更新】韓国ユン大統領を拘束 高位公職者犯罪…
  • 9
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 10
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 10
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story