- HOME
- コラム
- Instagramフォトグラファーズ
- 「普通の女性」たち
「普通の女性」たち
女性のステレオタイプがいかに空虚なものであるかを表現したいのだと、ミロシュニチェンコは言う(ちなみに、社会から生じる強迫観念ではなく、個々の人が良いと思って臨むのであれば、スリムになることを含め、どんな体型を目指そうがそれは構わない、とも彼女は語った)。
とはいえ、こうした社会的メッセージを持つコンセプチュアルな写真作品は、ここ数年のある種の流行りとも言える。
少しの才能があれば、ましてそれが自分自身に絡みつく問題であり、それを作品にする勇気さえあれば、一定のレベルで優れた作品にすることは簡単かもしれない。なぜなら、パターンやアプローチの方法はある程度すでに出来上がっているからだ。
だが、ミロシュニチェンコの場合、もう1つ注目すべき要素がある。作品にしばしば現れる美しさだ。この場合、官能的な美といってもいいだろう。
カルト的な美のことを言っているのではない。もちろん、異形とも言える被写体が絡んでくるため、そうした美も彼女の作品には存在するが、それは副次的なものだ。そうではなく、英語で言うaesthetics、耽美性だ。
この世の全てのもの、それこそ虫けらの死骸であっても存在する美学。それをミロシュニチェンコは絶対的なものとして信奉し、本能的に作品に含ませているのである。それが被写体のカルト的要素と大きなコントラストを生み出し、見る者をより不可思議な世界に引き込むのである。
同時にそれは、一歩間違えば、彼女の作品のテーマと大きく矛盾する。耽美性というものは、本来はアーティスト個人の価値判断によるべきだが、実際にはその法則的なものに大きく左右される。そしてそれは程度の差こそあれ、ステレオタイプな女性の美のパターンに類似しているのである。
実際、ミロシュニチェンコは、ステレオタイプによる女性の美を否定しながらもこう言う。
「(裕福さの中で美を通して幸せを追求した母は)結局はそれを掴むことはできなかった。......私自身、美しい身体が女性の幸せであるという公式は間違いで、正当化されるべきではないと痛いほど知っている。でも、私も母のようになると思う。それをはっきりと感じると、どうしようもなくなる」
しかし、だからこそ彼女の作品は心の奥底に響くのかもしれない。人間には白黒割り切れないものがあるのだ。そしてそれを考えるのは結局、彼女の作品を見て感じた私たち自身なのである。
今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Anya Miroshnichenko @anyamiro
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
この筆者のコラム
未婚女性やバーニングマン......決して一線は越えない「普通の人」たち 2020.03.13
iPhoneで撮影、北欧の「瞬間」を切り取る20歳のストリートフォトグラファー 2020.02.13
「男が持つ邪悪性をドキュメントしてきた」現代を代表する戦争写真家クリストファー・モーリス 2020.01.16
「アカウントは2回消した、それでも飽きない」本職はビル管理人のフォトグラファーは言う 2019.12.16
トランプ政権誕生でワシントンへ「全てはこのための準備に過ぎなかったとさえ思う」 2019.11.23
世界的な写真家が「魔法的な構図の創作者」を超えた写真 2019.10.27
日本の路地を彷徨い、人生が変わった「不思議と迷わなかった」 2019.09.27