コラム

Heatに覆われたイスラエルへの愛憎──アイデンティティを超えて

2018年04月07日(土)17時07分

From Daniel Tchetchik @danieltchetchik 

<イスラエルは完全にはうまくいかないガールフレンドのようなもの――。イスラエル紙ハーレツの写真家ダニエル・チチクの作品には、紛争や暴力の匂いがしない>

大半のアーティストや写真家は、人物や風景を含む自分の周りにある"環境"を通して、現代社会と現代人を表現しようとする。今回取り上げる42歳のイスラエル人、ダニエル・チチクもその1人だ。

生まれたときからカメラを手にし、イスラエルのリベラルな有力紙ハーレツで2003年以来、写真家兼フォトエディターとして働いているという。

彼の作品に流れているキーワードはHeatだ。物理的な暑さと、心理的な情熱やエネルギーを表す。たとえ被写体が冬に関連するものであってもだ。

チチクとイスラエルの関係もそうである。そこでは、空気、アスファルト、風景、人といった全てがHeatで覆われているという。さらに彼は、自分にとってのイスラエルは、完全にはうまくいかないガールフレンドみたいなものだと話す。うまくいかないのに、なぜか一緒に居させてしまうHeatがある。愛と憎しみ、怒りが入り交じっている。

Heatについて彼と議論する前、私はチチクがイスラエルの写真家であることを認識していたが、彼の作品、なかでも「Sunburn」シリーズを見たとき、不思議な感覚とある種の混乱を覚えた。一見すると典型的なイスラエルや中東の写真家でありながら、実はそうではないからだ。

確かに、作品に流れている、暑くて、触れれば爆発して分解しそうな感覚――Heatの一般的特徴だ――は、中東の写真家がしばしば持つ特徴だ。だが、イスラエルの多くの写真家が意識的にしろ無意識的にしろ取り入れている、紛争や暴力に対する葛藤の"匂い"が実質上なかったのである。むしろ、それを超えた、得体の知れない何かに取り憑かれたような匂いが作品に漂っていた。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き

ビジネス

トランプ氏「習主席から電話」、関税交渉3-4週間ほ

ビジネス

中国で高まるHV人気、EVしのぐ伸び 長距離モデル

ワールド

国連の食糧・難民支援機関、資金不足で大幅人員削減へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 7
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story