コラム

「スキンヘッドは本来、ヘイト(憎しみ)の象徴ではない」

2017年09月22日(金)14時07分

典型的な女性版スキンヘッドの髪型をした女性のポートレート。日本ではスキンヘッドは「頭髪を剃り上げたスタイル」を指すと思われているが、必ずしもそうではない From Owen Harvey @ojharv

<スキンヘッドやMod(モッズ)など、アウトサイダーを被写体とするイギリスの写真家オーウェン・ハーベイ。"トンがった"彼らの写真には、ナイーブで繊細な感覚が流れている>

エモーション(emotion)は、多くの写真家にとって絶対的な要素の1つだ。その扱い方、切り取り方次第で、作品の趣、価値さえまったく変わってしまう。ちなみに、写真などのヴィジュアルアートでは、怒りや悲しみ、喜びなどの感情を押し殺すことも――そうすることが自然な場面で――アンチテーゼ的に"エモーション"として扱われる。

今回取り上げる27歳のイギリス人写真家、オーウェン・ハーベイも、そうしたタイプの写真家の1人だ。直接的、爆発的なエモーションではなく、人物の内面からにじみ出すような感情の動きを見事に切り取っている。

ポートレート作品に優れたものが見られ、被写体の多くはアウトサイダーとされる者たち、イギリスのスキンヘッド・グループ、あるいはMod(モッズ、もしくはモッズ族。反伝統的でファッションに生活の重きを置く、通常、労働者階級に属する者たち)などである。

被写体がステレオタイプ的にはらむトンがった感じにもかかわらず、作品にはナイーブで繊細な感覚が流れている。見る者によっては懐かしささえ覚えるだろう。

何らかの理由でアウトサイダーになってしまった者たちの疎外感、それを取り省くために、あるいは自信を持つために形成しなければならない独自の世界や価値観――。例えば、意図的にタフに見せる行動、ファッション、または同じ匂いを持った者たちのとの共存。そうしたものが、触れれば壊れてしまいそうで、でも確実に存在する生活感として漂ってくるからだ。

それは、言葉を替えれば、親近感と言ってもいい。エモーションに絡みつく大きな要素である。作品の中にある被写体と被写体、あるいは被写体と写真家の間にある信頼関係がそれを生み出ししている。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 7
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 8
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story