コラム

世界が共感するヌード写真家レン・ハン、突然の死を悼む

2017年02月27日(月)14時45分

とはいえ、こうしたことだけでは、レンが国際的に大きな評価を得ることはなかっただろう。欧米で同程度の写真家なら、せいぜい一時的に評価されるぐらいだ。

つまり彼の写真は、彼のアイデンティティと時代と重なって、写真そのものを超えた存在になっているのである。

現在の中国では性を公に語り、表現することはタブーだ。それを行えば政府から執拗に叩かれる。事実レンは、作品が猥褻性を持つという理由で何度も逮捕されている。また中国で展覧会を行えば、すぐさま中止になったり、作品を没収あるいは破損されたりしてきた。そうしたことが、彼の作品に計り知れない社会的なメッセージを付加したのである。

無論レン自身は、作品に政治的、社会的メッセージがあることを否定している。だが、彼がメッセージを意図的に発しているかそうでないかはそれほど問題ではない。問題は、オーディエンスがそう感じているかどうかだ。

世界各国の著名な写真批評家やキュレーターも含めて多くのオーディエンスが、彼の作品に自由のメタファーとメッセージを、その裏にいる何億人にも及ぶであろう中国の若者たちの思いを、少なくともそれに通じる何かを感じ取っているのである。だからこそ、猥褻性を超えて凄まじいほどの共感を生みだすのである。

追悼。

【参考記事】Picture Power 全身9ドルの服が語る中国の肖像

今回ご紹介したInstagramフォトグラファー:
Ren Hang @renhangrenhang

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マレーシア第1四半期GDP速報値、前年比+4.4%

ビジネス

独企業、3割が今年の人員削減を予定=経済研究所調査

ビジネス

国内債券、超長期中心に3000億円増 利上げ1―2

ビジネス

イーライ・リリーの経口減量薬、オゼンピックと同等の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、アメリカ国内では批判が盛り上がらないのか?
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    関税を擁護していたくせに...トランプの太鼓持ち・米…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story