コラム

五中全会、成長優先で後回しになる国有企業改革

2015年11月06日(金)17時15分

今後5年間で年平均6.5%以上の成長率を目指す習近平 Andrew Yates-REUTERS

 10月26日~29日に開催された中国共産党の重要会議である第18期中央委員会第5回全体会議(五中全会)は、2016年から始まる第13次5ヵ年計画に関する中国共産党中央の提案を承認して閉幕しました。10月29日にコミュニケ、そして11月3日には提案の全文と習近平総書記による説明が発表されました。

 習近平総書記の説明では、今後5年間の平均成長率は6.5%以上とすることを求めています。私は、中国が成長率維持に腐心するあまりに、積極的な改革が後回しになることを危惧しています。

 事前に予想されていた通りに、2016年から始まる第13次5ヵ年計画の政府成長率目標は提案のなかには明記されませんでした。新常態(ニューノーマル)下の「中高速」成長とは6%~7%程度と解説されていますが、習近平総書記による説明では、今後5年は年平均6.5%以上の成長が強く意識されています。

 具体的には「2020年までに国内総生産と国民一人当たりの収入を2010年比で倍増させるという目標を達成するには、ある程度の成長率を維持しなければならない。国内総生産を倍増させるには、今後5年は年平均6.5%以上の成長率が最低ラインとなる」としています。なお、この倍増目標は2012年11月開催の中国共産党第18回党大会で発表されました。党大会は5年に1度開催される中国共産党の最重要会議です。

 2016年3月に開催される全人代(国会)で第13次5ヵ年計画の政府成長率目標が6.5%前後に設定されるとしても、これはあくまで平均です。前半は高めで後半は低めとなるイメージでしょう。ちなみに2011年~2015年の第12次5ヵ年計画の成長率目標は7.0%前後ですが、毎年の目標は、2011年は8.0%前後、2012年~2014年は7.5%前後、そして2015年が7.0%前後でした。

 2016年の目標は2015年と同様の7.0%前後に設定される可能性が高く、着地点の下限は6.8%程度となるのではないかと考えています。足元の成長率が7%割れとなるなか、景気減速にいったんは歯止めをかける必要性が高まっています。今後しばらくは、追加金融緩和やある程度の財政政策などの景気下支え策が強化されていくでしょう。

「成長の質的向上」は早くも挫折?

 しかし、今後5年にわたり平均で6.5%以上の成長を遂げるのは並大抵のことではありません。また、必要な成長率を単に「2020年までに国内総生産を2010年比で倍増させる」目標から逆算してはじき出していることには大きな問題があります。まずは成長率ありきで、それが足かせとなって改革志向が低下することが危惧されるからです。

プロフィール

齋藤尚登

大和総研主席研究員、経済調査部担当部長。
1968年生まれ。山一証券経済研究所を経て1998年大和総研入社。2003年から2010年まで北京駐在。専門は中国マクロ経済、株式市場制度。近著(いずれも共著)に『中国改革の深化と日本企業の事業展開』(日本貿易振興機構)、『中国資本市場の現状と課題』(資本市場研究会)、『習近平時代の中国人民元がわかる本』(近代セールス社)、『最新 中国金融・資本市場』(金融財政事情研究会)、『これ1冊でわかる世界経済入門』(日経BP社)など。
筆者の大和総研でのレポート・コラム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story