コラム

出張では「業務」以外の活動はいけないのか?

2023年02月01日(水)15時40分

海外出張中の首相秘書官の観光やショッピングが批判されている Tijana Simic/iPhone

<海外出張では、時間を有効に使ってリアルな現地情報を収集するべきだが......>

岸田首相の長男、岸田翔太郎秘書官が、首相の出張に同行した際に、観光や土産のショッピングをしたとして批判されています。確かに、SNS発信のための「映える絵」を撮ろうとしたとか、老舗百貨店で土産物を買い漁るといった行動には呆れるしかありません。

ですが、この種の批判が激しくなることで、官民ともに「海外出張の際には、公私混同を疑われないように、狭い意味の『業務』以外はしてはいけない」という風潮が強まるのは、ちょっと違うのではないかと思います。

例えば岸田秘書官は、バッキンガム宮殿に行ったそうです。公費をかけて訪問するのであれば、事前にアポを取って王室秘書官の事務所にヒヤリングをかけるといった行動は取れなかったのかと思います。日本は皇位継承に関して世論が分裂しています。いつまでも先送りが許されるわけでない中では、イギリスの制度改定の事例、その際の賛否両論などについて、実務上のヒヤリングをしておくことは有益と考えられます。新国王による組織簡素化が、成功しているのか、それとも障害に直面しているのかなどの情報も聞き出せれば役に立つでしょう。

何らかの有益な情報を収集できれば

土産を買いに百貨店に行ったというのは論外ですが、それでも老舗百貨店で意味のあるウォッチングというのは可能です。老舗百貨店における日本人以外の、例えば中国やアジア諸国の観光客の買い物パターンなどをヒヤリングできれば、日本の観光政策に活かせるかもしれないですし、日本では衰退しつつある百貨店という業務形態について別の角度から考える機会になるかもしれないからです。

岸田秘書官が批判されるべきなのは、公費を投じた出張の際に、その機会を最大に利用して、周辺情報を収集し、政府の実務的な業務に活かす、そうした機動的な活動をしなかったか、仮にしたとしてもアピールできなかったことにあると思います。

反対に、この種の批判が増すことで、昔からある「出張は仕事だから観光など公私混同をしてはいけない」という意味不明の「縛り」が強まるとしたら、これは困ったことです。

では、何が行われていたのかというと、高額なコストをかけて駐在させている外交官や、企業の駐在員は、出張してくる本社や本国の「偉い人」を空港に迎えに行き、ゴルフの相手をするなど自分たちの「日本の延長である世界」に閉じこもってコストを浪費していたのでした。遊びでも上司と一緒にイヤイヤやるのは仕事で、個人行動で現地情報を収集するのは公私混同というのは、逆だと思います。

そう考えると「お土産」という習慣にも相当に疑問があります。前世紀から残る習慣として「私だけが海外出張をするラッキーに恵まれたので、行かなかった人にもお裾分け」というニュアンスが否定できないからです。ここにも、出張は役得で、公私混同と誤解されるので、そうした批判を予防しようという妙な心理が働いています。野党は「お土産の購入はプライベート」だなどといって批判していますが、的外れだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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