コラム

あきれてモノも言えない、講演資料を官庁に「外注」する国会議員

2021年11月24日(水)14時40分

議員事務所がどのような活動をしているのかチェックする制度も必要では Free art director/iStock.

<三権分立の原則を考えれば、行政府のチェック機能を果たすはずの国会議員の「外注」を請け負うのは「便宜供与」になるのでは>

朝日新聞(電子版)のスクープによると、国会議員の一部が「支援団体などの会合に出席する際の挨拶文や講演資料」の作成を厚生労働省の職員に依頼していたそうです。その件数は、2020年11月までの1年間で少なくとも400件にのぼり、与党だけでなく、野党分も数十件あったそうです。

あきれてモノも言えない話ですが、このニュースに関する各所の反応にも驚かされました。まず論評や報道の中で、この問題については「公務員の働き方改革」という文脈からの批判がほとんどだというのには、違和感があります。一部の有識者からは「公務員は全体の奉仕者」だからマズイという批判もありましたが、これも問題の核心からは外れています。

そうではないと思います。まず、こうした行動は「三権分立」に反します。日本は議院内閣制を取っており、行政府の長である内閣総理大臣は国会議員の中から国会が指名します。ですから大統領制と比較すると、立法府と行政府が重なる部分はあります。

与党にも行政チェックは求めらていれる

ですが、そこにはケジメというものがあります。例えば、国会では野党だけでなく、与党の代表も本会議や委員会での質問に立ちます。自分達が組織している政権であっても、実際の行政府に対するチェック機能というのは、与党にも与えられており、これに対して行政府は誠実に答弁をしなくてはなりません。

行政府の機関である中央官庁の職員が、国会議員の秘書の代役をして、挨拶文や講演資料の「外注」を請け負っていたというのは、三権分立の観点からは何が問題かというと、そこには「利害相反」の関係における「便宜供与」という問題があるからです。

官庁の側にはこの種の「サービス」を行う動機はあります。省庁が準備を進めている法案について、スムーズに国会を通して欲しいとか、余計な質問をして政策実行を妨害しないで欲しいといった要望は暗黙のうちに省庁は抱えています。そこで、「国会議員の業務を代行する」という「便宜供与」を行うことについては、官庁の側には動機があるわけです。

しかしこれは単なる「貸し借りの話」で済む話ではありません。有権者から見たら、自分達の代表である国会議員が、行政府から便宜供与を受けることで、情実によって判断を歪める可能性があるということを意味しているからです。国政調査権や法案の議決権を100%行使するのではなく、行政府への「借りを返す」必要から甘い追及をしているとしたら、これは有権者への配信行為だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハンガリー、ICC脱退を表明 ネタニヤフ氏訪問受け

ワールド

ミャンマー地震、死者3000人超える、猛暑と雨で感

ビジネス

サントリーなど日本企業、米関税に対応へ 「インパク

ワールド

韓国、米関税で企業に緊急支援措置策定 米と交渉へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story