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『スター・ウォーズ』完結、半世紀の米現代史を反映した3つの3部作
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多様性に配慮したキャスティングも新3部作の特徴(今月18日にロンドンで開催されたプレミア上映会) Henry Nicholls-REUTERS
<オリジナルの公開から実に42年......ベトナム敗戦、対テロ戦争、多様性尊重とそれぞれの時代背景が色濃く投影されてきた>
当初はジョージ・ルーカスが設立したルーカスフィルムと、20世紀フォックスによって制作された映画『スター・ウォーズ』シリーズは、2012年にディズニーがルーカスフィルムと『スター・ウォーズ』に関する全ての権利を買収し、新たに「エピソード7~9」の「新3部作」を制作していました。
その新3部作も、今回の『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け(原題は "Star Wars: The Rise of Skywalker")』で完結し、ルーカスが言及していた当初計画の全9部作が完成したことになります。完結編となった『スカイウォーカーの夜明け』については、あまりに多くの要素が短い尺の中に詰め込まれており、作品としては「見づらい」印象です。
ですが、その反面で過去の8作で展開されたエピソードやテーマを、残すことなく「落とし所」へ持っていった点では、及第点とも言えるでしょう。編集の窮屈な点については、今後拡大版が用意されるのではと思わせる印象があります。
それにしても、最初は『スター・ウォーズ』というタイトルで公開された「エピソード4」公開(1977年)から42年という歳月が流れました。この全9作は、4から6のオリジナル3部作(77~83年)、そして1から3の前3部作(99~2005年)、そしてディズニー買収後の後半の3部作(2015~19年)という3つの3部作に分けることができます。そして、それぞれの3部作は、それぞれの時代を反映してきました。
重苦しい古典劇のような前3部作
まずオリジナルの3部作は、1973年に米軍が南ベトナムから撤退し、75年に北ベトナムによりベトナムが統一された、つまりアメリカが事実上ベトナム戦争に敗北した直後に制作されました。また、そのベトナム撤退を判断したニクソン大統領は、ウォーターゲート事件による弾劾手続きが進む1974年に辞任しています。
つまりアメリカは戦争に敗れ、同時にリーダーシップへの懐疑にとらわれていたのでした。そんな中でオリジナル3部作は、善悪二元論に立ちながら、強大な悪に追い詰められつつも友情や信頼をベースとした団結によって善の側が勝利してゆくという一種の「アメリカンドリームの復権」を描いたと言えます。さらに、東洋哲学的な「フォース」という概念や、どこか日本の着物を意識した衣装などには、キリスト教文化から自由になりたいという当時の若い世代の意識が反映していたとも言えるでしょう。
一方、「エピソード1~3」の前3部作は、一転して「善が崩壊して悪に転落する」というネガティブなストーリーが「これでもか」と描かれています。ここには、中東情勢の悪化を受けて、9.11の同時多発テロをきっかけにアフガニスタンとイラクでの戦争へと突入していったアメリカの「自己否定」という問題が強く反映されていたのでした。
戦争に突入する暗さに加えて、議会制民主主義が機能不全になって独裁が開始されるというディストピア的な政治観も表現されていました。それと同時に、ポップなエンタメであったシリーズが、重苦しい古典劇のような雰囲気に染まっていった時期でもあります。
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