コラム

都政と国政の混同で、東京は選択機会を逸した

2017年07月04日(火)16時45分

都議選は都民ファーストの圧勝、自民の歴史的惨敗という結果に終わったが Kim Kyung Hoon-REUTERS

<首都・東京がどれだけ重要な票田でも、地方選挙の都議会選の結果で国政を論じるのは筋違い>

首都の地方選挙が、そこが首都だからといって国政の象徴になるのは筋が違います。確かに、党派別の勢いについて最新のデータにはなるのですが、それでも東京の選挙区の動向だけです。国政選挙の場合は東京以外に9000万人余の有権者が存在することを考えると、今回の都議選の結果で国政を論じるのは全くの飛躍だと思います。

見方を変えてみればどうでしょう? 東京の票が国政を左右するのではなく、東京という地方の政策を決定すべき都議選で、東京は東京の問題が決められなかった、そう考えることもできます。

東京には大きな課題が3つあると思います。

【参考記事】大阪と東京に生まれた地域政党の必然と限界

1つ目は人口の問題です。雇用と大学が東京に一極集中する中で、全国から若者人口を現在でも「吸引し続けている」わけですが、この異常な状態を続けるのか、少なくとも抑制するのかという問題は東京が選択していかなくてはならないと思います。

2つ目は、東京が近い将来に単身の高齢世帯を支えていかなくてはならないという問題です。2035年頃から財政負担も重くなるという試算がある中で、今からその備えをしなくてはなりません。その備えについて、東京を縮小し、コストカットしていくのか、それともより経済を成長させるのかという問題は、今この時に選択しておく必要があると思います。

3つ目は、産業構造転換の問題です。仮に東京がさらなる経済成長を志向するのであれば、国際金融都市にするしかありません。この点については、一部の政党のマニフェストにも入っていましたが、問題は中身です。国際金融都市にするには、まずアドミ(総務・経理・人事)の仕事を英語化すること、会計基準をIFRS(国際財務報告基準)にすること、金融情報を完全に英語化することが必要です。そのような都市にするには、社会制度も教育も含めた決断をしなくてはなりません。

3つ掲げましたが、この他にも東京の出生率が低い原因として教育費の問題があり、その背景には中学校レベルの公教育の破綻という問題があります。これも、この3つの問題に関わってくる問題であり、全国では上手く行っているのに東京だけが深刻な状況に陥っているわけで、この点についても、東京は自分で変わっていく必要があると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story