コラム

オスカー作品賞「誤」発表の大トラブル、その時何が起こったか

2017年02月28日(火)15時40分

では、今回の「真相」はどうなのでしょう? 色々な報道がされていますが、「発表直後のベイティの手の中にあったカードを超望遠で撮った写真には、『演技賞』という文字が見えるので、ベイティの説明はウソではない」らしいということが一つあります。その一方で、主演女優賞のエマ・ストーンからは「自分は受賞後ずっと赤封筒の中のカードを持っていたので、主演女優賞のカードと作品賞のカードの取り違えということはないと断言できます」という証言が出ています。

アカデミー賞事務局は、各賞の封筒を、予備を含めて2通づつ用意していたようです。土壇場で『ラ・ラ・ランド』のプロデューサー、ホロウィッツが掲げて見せた「ホンモノ」の「作品賞告知カード」は、大混乱の中でスタッフが差し入れたのかもしれません。

いずれにしても、今回の大ハプニングの中で、このジョーダン・ホロウィッツという人の機敏で紳士的な行動が大変な話題になっています。「ウソの横行する世の中で、久しぶりに真実を堂々と口にする人を見た」などという具合です。

同時に、このハプニングが起きたことで、「ライバル視」されていた『ラ・ラ・ランド』のチームと、『ムーンライト』のチームに不思議な友情のようなものが醸し出されたこと、またこの騒動のおかげで、最初から最後まで「逃げも隠れもしない反トランプのイベント」に終始した今回のオスカーが「そのことを少し忘れさせる」格好で終わったということも言えそうです。

日本なら混乱の瞬間にすぐカメラが切り替わって「放送事故」扱いになるところですが、そこは「土壇場の機転」が大好きなアメリカです。この最高に人間臭いヒューマン・ドラマがノーカットで中継されたのは、なかなかの見物でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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