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芥川賞『コンビニ人間』が描く、人畜無害な病理
コンビニの定型業務を快感に思うのは洗脳されて搾取されているだけだとか、本当の非性愛の人間の生きづらさはそんなものではない、というような議論に「巻き込まれる」のは容易に想像ができます。そして、そのような「聞き飽きた」議論には関わりたくないという姿勢には、かなり毅然としたものも感じられます。
とにかく「どこかで聞いたことのある」ような「論点」は徹底されて排除されています。価値の相対化をやってはいるものの、それを突き詰めることはしない、そこで身体性のリアリティーの世界に立脚して居直るのでもない、例外的な人間を描いて凡庸な社会常識に一撃を加える気などもさらさらない、という「徹底したニュートラル志向」は見事と言えます。
もしかしたら、関係性や場の空気を理解しない、そして無性愛的な主人公、そしてコンビニの空間というのを、2010年代の日本社会の「代表的な風俗」として、徹底して「記録しておこう」ということなのかもしれません。
あるいは、「人工的な凡庸性」そして「突出しない人畜無害な病理」を描くことで、それをコンビニ文明のメタファーにして見事に批判してみせた、という可能性もあると思います。そうした多様な読み方を誘発する作品であり、その点だけでも一読の価値があると思います。
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