コラム

どうして被災県知事が情報の司令塔になれないのか?

2016年04月19日(火)12時00分

避難者の急増で救援物資の配給は混乱が続いている Kyodo/REUTERS

 熊本地震では、余震が続く中で被災者の避難をどうするか、物資の調達をどうするかなど、日々、危機管理が続いています。危機管理の中で、最も重要なのが情報です。情報の管理といっても、別に情報を隠せとか操作しろというのではありません。被災県民に対しても、全国に対しても必要な情報が的確に流れることは重要ですし、それに加えて、顔の見える個人が肉声で情報を整理して発信することができれば、心理的な安心感を与えることもできるはずです。

 今回の危機管理を見ていますと、こうした人的なリーダーシップとコミュニケーションという問題がとても気になります。2011年の東日本大震災でも同様の感想を持ったのですが、例えばですが、県知事が行う定例会見を情報集約とメッセージ発信の場にすることはできないのでしょうか?

 これはアメリカの例で、しかも天災ではなく人災ですが、2001年に911のテロが起きた際には、当時のジュリアーニ(ニューヨーク)市長は、連日定例会見を行い、それがローカルと全国のテレビに流れて、地元の人々と全国の人々とのコミュニケーションの「ハブ」になりました。

【参考記事】こんなはずではなかった「3.11からの5年間」

 その内容は多岐に渡り、「昨日の時点では何丁目から南は立ち入り禁止だったのを、本日の◯時から立ち入り禁止を解除します」という種類の具体的な生活情報もあれば「本日時点での身元判明犠牲者は何名、不明者は何名です」といったファクトの確認、そして「小職は殉職した市警のAさんの葬儀に行って参りました。悲しいがいい式でした」といったエモーショナルなものまで、連日キチンと会見で説明し、質問に答えていたのです。

 時には「今は戦争状態だと言うこともできるかもしれません。でも、皆さん閉じこもっていてはダメです。ショッピングに行ける方は行ったらいいと思います。お子さんのいらっしゃる方は、お連れになったらいい。安全は私が請け合います」というような、ヒューマンなメッセージも発信していました。

 ジュリアーニ氏個人に関して言えば、その後は保守的な外交政策を掲げたり、今はドナルド・トランプを支持したり、政治的な立場はハッキリしていますが、この危機管理の期間中は、定例会見で党派的な発言は一切しなかったのも見事だったと思います。

 私にとってさらに身近なのは、ハリケーン「サンディ」の襲来を受けた際のクリス・クリスティ(ニュージャージー州)知事の対応です。知事は、ハリケーン上陸の前からFMラジオに出ずっぱりで、州民からの質問に答えたり、被災後は状況を説明したり、コミュニケーションの「ハブ」の役割をしていました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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