コラム

広島・長崎の「70周年」をどう考えるか?

2015年06月30日(火)10時25分

(4)70周年を契機として、ヒロシマへの核攻撃がどうして行われたのかという問題が問い直されるべきと思います。枢軸国日本が制空権を奪われ、主要都市の空襲で大きな被害を出し、レイテ、沖縄と大きな戦闘に完敗した。それでも権力中枢の一人一人が自己保身のために、ポツダム宣言の受諾を遅らせたことが核攻撃の口実を許した、それは事実でしょう。特に、冷戦という新しい文脈が生まれつつある国際政治を理解することなく、ソ連の仲介による講和を模索したというような愚策は、結果的に核攻撃を許すスキを与えたように思います。この辺りの「大戦末期の歴史」を問い直すことも必要です。

(5)だからといって、核攻撃は仕方がなかったということにはできません。広島と長崎を合わせて30万人の非戦闘員の殺戮という事実が「あれで良かった」ということにはならないでしょう。攻撃の当事者であるアメリカ合衆国の現職大統領が、いつの日か「謝罪(apologize)」か、そうでなくても「遺憾(regret)」という言葉を広島ならびに長崎に対して口にする、いつの日か、仮に少し先の未来であってもその日が来ることが必要です。今年は不可能でも、オバマ大統領の任期の最後の年となる2016年には「相互献花外交」を是非実現して欲しいと思います。

(6)核拡散防止条約の「再検討会議」で、日本が世界の指導者に広島・長崎への訪問を呼びかけたところ中国が猛反発、韓国も消極姿勢を見せるなど、ヒロシマ・ナガサキのメッセージに誤解が生じています。核兵器の使用でようやく終結したという事実をもって、第二次大戦の歴史は「二度と世界大戦を起こしてはならない」という人類共通の理解を生みました。世界大戦がこの「第二次」で最後であれば、日本は最後の枢軸国という負の歴史を背負うこともまた宿命付けられています。そのことと、30万人以上という膨大な核攻撃の犠牲ということを人類共通の惨禍として記憶することは、問題なく両立するのです。ヒロシマの被害を訴えることは被害者の正義を振り回すことではありません。それと、大戦に参戦したことの誤りを反省することは全く矛盾しないのであり、少なくとも広島と長崎の街ではその点に一点の混乱もないことを改めて訴えて主張すべきです。

 この6点は相互に関連していますが、特に(5)の日米相互献花外交への道筋をつけることが、(6)の中国や韓国の「ヒロシマ・ナガサキのメッセージへの誤解」を解いていく、重要な鍵だ思います。

「戦後70周年」の今年、8月6日と9日は特別な意味合いを持たなければなりません。その意味合いを強くアピールすることを、両都市は国際社会から期待されていると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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