コラム

「3Dプリンター銃製造事件」がどうして「規制論議」になるのか?

2014年05月13日(火)13時21分

 一般的な銃というのは弾丸を包み込んでいる薬莢内の発火薬に、撃鉄なり撃針を打ち付けて発火・爆発させ、その爆発の衝撃で弾丸を押し出して発射する構造になっています。ですから、一度試射したら、その際に薬室は高温になるわけで、仮に樹脂製の銃であればそこで薬室の構造は破壊されてしまいます。そうなると「2発目」を撃とうとすると、発火薬が爆発しても弾丸が前へ行かずに銃の構造自体が爆発して、撃った方の人間が深刻なケガをする可能性があります。

 仮に薬室が崩壊しなかったとしても、弾丸が真っ直ぐ飛ぶように精巧につくられた銃身という筒が、1発目の弾丸が通過した時の熱で歪んでいますから、2発目以降の命中率は劇的に低下するばかりか、狙った方向とは全く別に飛んで惨事を起こす危険もあるわけです。一部には回転式の連射タイプも「3Dプリンター」で作れるという報道がありますが、1発目を撃って熱で変形した後では、シリンダーが回るかどうかも怪しいと思います。

 そうした観点からして、樹脂製の銃というのは大変に危険であり、護身用にすらなりません。ですから、製造するという愚行を防止するという目的も含めて犯罪として取り締まる必要があるのです。

 例えば、「金属探知機をスルーするから怖い」という、まるで樹脂製の銃には「より脅威がある」という報道がされていますが、これも危険性の論点がズレていると思います。

 もう1つの観点は、3Dプリンター用の「銃の設計図」をダウンロード可能な状態にするということが、銃の取締法からして違法だという考え方です。アメリカの国内には銃保有主義者がいるために規制には限界があるのですが、設計図をインターネットにアップロードするという行為は「国際的な武器流通」につながり、禁止条約違反になることから、連邦政府は設計図を公開していた「DD(ディフェンス・ディストリビューテッド)」という団体に対して厳しい取り締まりを行って、データを削除させています。

 今回の日本での「製造事件」に関して言えば、銃刀法違反での摘発ができています。とにかく、形式主義的な判断を排してこの事件をしっかり有罪として判例化することが大切です。仮に妙な判例が出そうになり「抜け道」をふさぐ必要があるのであれば銃刀法の改正を迅速に行えば良いと思います。

 これに加えて、樹脂製の銃に薬莢を装填させて着火させることが大変に危険であり、標的になった側ではなく射撃しようとした側を死傷させる可能性があることをしっかり報道して模倣犯を防止することが大切だと考えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story