コラム

コネティカット乱射事件から一周年、進まない銃規制

2013年12月17日(火)11時11分

 一方で、全国レベルでは銃による犯罪が後を絶ちません。13日のコロラドの事件もショッキングでしたが、年末の「ショッピング・シーズン」を迎えて、モールでの銃撃事件なども起きています。私の住むニュージャージー州は、全米でも最も厳しい銃規制をしいていますが、ここのところ連続して郊外型の高級ショッピングモールで銃撃事件が発生しています。

 そんな中、12月14日の「サンディーフック事件の一周年」に当たって、オバマ大統領夫妻はホワイトハウス内で黙祷を行うとともに、コメントを発表しました。その中では「銃規制」ということは一応言っているのです。銃規制に関する運動に関しては「コネティカットの勇気ある遺族が立ち上がって、これに何百万人ものアメリカ市民が続いた」と話し、ワシントン主導ではなく、各州の市民が主導した運動を評価すると語ったのです。

 一見すると立派なメッセージですが、この「ワシントン主導ではなく市民の主導で」という言い方は、結局のところは「銃規制問題は各州任せ」と言うのと同じことです。東部やカリフォルニアなど銃規制に積極的な州は規制を進めればいいし、銃保有派の多い州は実情に合わせてやればいい――つまり「全国的な合意形成はムリなので、努力は州ごとで良い」、要するにそういうことです。

 これでは、共和党の穏健派の主張とほとんど変わりません。例えば、先ほど言及したニュージャージー州に関してですが、同州のクリス・クリスティ知事には、現時点では2016年の大統領選への待望論が盛り上がっています。ですが、「全米で最も厳しい銃規制を行っている」という理由で、共和党内では「真正保守ではない」という非難を浴びているのです。これに対するクリスティ知事の反論は「とにかく地域特性と州の自治を尊重する」というもので、「連邦主導での規制」に消極的なオバマの立場は、このクリスティ知事の立場とほとんど同じということになってしまいます。

 そうなると、2016年の大統領選に向けての銃規制議論は、夫のビル・クリントンが銃規制を進める法制化に成功した「実績」のあるヒラリー・クリントンに期待するしかありません。ですが、そのヒラリーも、2008年の大統領予備選でオバマと対決していた時には「草の根保守の票」欲しさに「銃というカルチャーは尊重する」と言っていたわけで、余り大きな期待はできないのかもしれません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 10
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story