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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「復活」ロムニーの弱点は外交問題という声は本当か?
先週の水曜日(3日)に行われた大統領候補TV討論の余波はかなり大きくなっているようです。精彩を欠いたオバマに対して、ロムニーはほぼ完勝といっていいパフォーマンスを見せたわけですが、今週に入って続々と入ってきた各州の世論調査結果も、そうした流れを受けて大きく動いています。
特に勝敗を制すると言われている、「スイングステート」の中で、オバマのリードが伝えられていたフロリダやコロラド、ノースカロライナでロムニーが互角もしくはリードに転じるなど、状況は正に風雲急を告げてきたという感じです。ただ、最終的な決戦場になると言われている、オハイオとバージニアでは依然としてオバマがリードという数字もありますし、全国レベルでの調査では両者が47%対47%で並んでいるわけで、まだまだ「ロムニー大統領誕生か」というところまでは行っていない、これもまた事実だと思われます。
ただ、週末から週明けの各メディアは「オバマ危うし」というトーンに一斉に傾いてしまっています。TV討論のパフォーマンスの直接的な影響だけでなく、オバマとしては、様々な形でモメンタムを奪われるような状況にもなって来ているとも言えます。
中でもショッキングだったのはCNNの全国調査で、これまで「60%対27%」と圧倒的だった女性票に占めるオバマ支持が、ロムニーと互角になっているというのです。ロムニーの場合は「奥さんに専業主婦をさせている億万長者」というイメージで女性票からは「絶対にノー」と言われていたわけですが、女性たちの直感としてはそれ以上に「弱い男はイヤ」ということになったわけで、これはかなり深刻だと思います。
さて、オバマ陣営は週末の各局の政治討論番組では、応援団を繰り出して挽回に必死でした。その中でギブス元ホワイトハウス報道官などは「TV討論でのロムニーは仮の姿であり、本質は悪人」だという、レトリック以前の「ほとんど空回り」の批判をやっていたわけですが、その中で「空回り」とは言えない部分もありました。それは外交問題です。
選挙戦を通じた論戦が内政問題に終始する中、ロムニーに関しては外交方針が見えないというのです。ロムニーも外交に関しては発言しています。例えば「オバマ以上に中国の勝手は許さない」とか「イランではオバマは弱腰」あるいは「イスラエルとの同盟は堅持」といった具合で、言葉としては威勢が良いのですが、中身が良く分からないのです。
例えば、ここ10年の「ポスト9・11」の時代における共和党的なレトリック、例えば「反テロ」というスローガンを「錦の御旗」のように掲げるということもないですし、中国に対して具体的に南シナ海の航行の自由とか、太平洋での軍拡の問題などを批判することもないのです。つまり、ロムニーの外交方針というのは、具体的にも見えないし、大方針としても見えていないのでした。
そんな中、8日の月曜日にロムニーはバージニア州立軍学校を訪問し、真っ白の軍装に身を固めた軍学生を聴衆として四方に配置するという「ビジュアル・セッティング」を施した上で、「軍事外交に関する基本演説」と称してスピーチを行いました。
ここでのロムニーは、かなり威勢の良い調子で「オバマの軍事外交は軟弱である」であるとか「強いアメリカの復権を」というスローガンを「共和党的なレトリック」で展開していました。ですが、具体的な内容はほとんど無かったのです。その中で、1点だけ大きな注目を浴びた部分がありました。それは「シリアの反体制派に武器供与すべきだ」という主張です。
シリアのアサド大統領に関しては、反体制派に対して国軍を使った虐殺行為を行なっており、シリア自体はほぼ内戦状態になっています。国連もNATOも色々な動きをしていますが、この状況には対応ができていないのです。問題は大きく2つあります。1つは反政府側の中に「アサド政権以上に反イスラエル的な」例えば「ヒズボラ系」の勢力が入っているかどうかの見極めができていないということであり、もう1つはシリア領から難民が流出する中でクルド人の動向が活性化しているという問題です。
この2つの問題は非常に複雑です。まずアサド政権が倒れても、ヒズボラに近い勢力が力を伸ばすようですと、この地域の情勢は「アンチ・イスラエル、親イラン」という色彩が濃厚になることになります。イランに関しては、そもそも、西側としてはアサドがイランの支援を受けているのも気に入らないわけですが、敵の敵が味方であるわけでも「ない」中で、どう動いたらいいか見極めがつかないわけです。
イスラエルに関しては、アサド父子の「親イスラエル」というのは国内の政治・軍事力学上の「手段」に過ぎず、そこには打算があり、妥協の余地はあるという見方を西側は取ってきたわけです。アサド・ジュニアは国民の虐殺を始めて世界を敵に回しているわけですが、このイスラエルとの「妥協の具合」ということでは、反アサドになれば「余計にキツく」なるのを警戒しなくてはならない、この点に変わりはありません。そこで、オバマもNATOも「反政府勢力への支援」には慎重だったのです。
クルド人に関しては、トルコ領内での自立への動きが加速し、これにイラク領内、イラン領内のクルド人が呼応するようですと、この地域の安全保障地図がガラリと影響を受けてしまいます。アメリカの視点で言えば、イラクの国内政治への影響は相当に大きいものとなるでしょう。
ロムニーはそうした事情を良く理解して言っているのか、それとも純粋な民間セクターの出身である彼には、全くその辺の「勘」がないのか、現時点では良く分からないわけです。ただ、ロムニーに好意的に見るのであれば、共和党の右派のように「アラブの春は基本が反米であり、カダフィやムバラクは守るべきだった」という「頑迷さ」はないわけで、その意味では時代の流れをある程度は見ることが出来ているのかもしれません。
いずれにしても、ロムニーの弱点は外交だという指摘は、現時点ではそのような見方をされても仕方がないように思われます。11日の副大統領候補討論、次いで「タウンホール・ミーティング形式」の第2回大統領候補討論を経て、月末には「外交」をテーマにした第3回(最終)の討論が予定されています。このまま順調にロムニーが攻勢を続けるというわけでもなさそうです。
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