コラム

日銀金融政策 次の一手

2018年01月24日(水)12時38分

1月23日、黒田東彦日銀総裁は出口観測を否定したが、市場からは催促が Kim Kyung-Hoon-REUTERS

いよいよ出口戦略開始だ。

黒田総裁は会見で出口の議論は時期尚早と従来からの説明を繰り返したが、市場やメディアが出口議論を催促するとは世の中とは意外と正しく変化するものだ。

間違っているのは政治だけで、日銀内部ももちろん出口へ向かう議論をしているはずだ。

総裁人事で黒田再任となり、国会承認も得られ、4月に次の任期が始まれば、いよいよ出口開始だ。

****

まず、何からやるか。

普通に考えれば、次々追加の手段を繰り出したのだから、逆に最後に追加したものから一つずつ外していくのが自然。となると、まず長期金利コントロール、正式にはイールドカーブコントロール、これをまず外し、次にマイナス金利を外し、その後、ETFを6兆円から3兆円、80兆を目途という長期国債を60兆へ、戻していく、ということになる。

しかし、米国FEDの手順を見ても、金利がゼロになってから量的緩和(正式にはバランスシートポリシー)となったのだから、これをまずやめ(いわゆるテイパリング)、追加買い入れを停止し、その後、バランスを縮小し、最後に金利をゼロから上げていくことになるはずだが、実際には逆で、金利を先にあげた。

これは市場に与える影響が小さいものからゆっくりやっていく、あるいは市場にとって必要なものからやっていく、ということで、金利のゼロが低すぎるのでまず解消ということだった。

日本はどうか。

「異次元」緩和の出口は難しい

日本の難しいところは、世界でもっともイノベイティブな中央銀行であり、その創造的な手段は異次元だ。

長短金利操作というのは、一旦はじめたらやめにくい、不可逆的な政策手段の変更だった。

つまり、今日、黒田総裁も答弁していたのだが(実はここが今日の記者会見でもっとも重要なところだった)、もはや目標は量ではなく長短金利(イールドカーブ)なのだから、国債買い入れ額が年間で80兆を下回る60兆でも何の問題もない、80兆というのも厳密な目標ではなく目途に過ぎないからね、と答えた。

すなわち、量の目標は捨てたので、そして量を目標にする、というのは異常なことなので、むしろ長期金利を目標にするのは世界中央銀行史上初とはいえ、理論的には、金利こそが実体経済に影響を与え、国債の買い入れ量はバーナンキも発言したように、なぜ金融政策として効果があるのか理論的にはわからないのだ。

実際、私の個人的予想としては、長期金利目標を外すと市場は大混乱し、乱高下となるだろう。そうであれば、長期の目標金利をゼロ程度から0.1%とか0.2%などへ上げ、量に関しては目途であるから80兆はそのままにあいまいにしておくほうが金融市場のかく乱は小さく、もっと重要なことに、実体経済への影響も小さいだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story